▼ 27
柔らかなまどろみの中、このままずっと目を閉じて闇に融けていきたいと切に願っていた。けれど、愛でる様にあたしの髪を撫でる温かい手をもっとずっと感じて居たいとも思っていた。
「…ごめんなさい」
「それは木の葉に対してか?」
「ううん‥ごめんなさい、気にしないで」
徐々に定まる視界に映った面をしていない彼には驚いてしまったけれど、それ以上に甘い雰囲気を醸し出す姿に変に力が入った。
…どうしてこんなにも甘い雰囲気なんだ
一瞬過った考えを振り払って、変に緊張してしまう前に彼から視線を外せば見知らぬ場所だった。
記憶にない場所に疑問はいくつか生まれたけれど、生憎ここが何処かなんてあたしには知る術がなく仕方なしに彼へと視線を戻せばやっぱりどこか嬉々とした様子で何がそんなにも彼を喜ばせているのかわからなかった。
「…随分と嬉しそうですね?」
「そう見えるか?」
「まあ、そうですね」
興味無さ気に相槌を打ったあたしに対して彼はやっぱり楽しそうだった。
そんな彼と対照的にあたしの気分は優れてなかった、がこの目の前でやたらと嬉しそうに楽しそうにしている彼には関係なかったようであたしの髪を撫でたかと思えば次には頬を撫でてみたり…と、その仕草にもう会うことは無いであろう片目のあの人を思い出した。
「何を考えてる?」
「どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」
「さあ、どうしてだったか」
「そればっかり」
いつだって曖昧な答えしかくれない彼にムッとした。
そんなあたしの姿にさえ彼は愉しそうにしていたのだけれど。
「ここはどこ?」
「ここはうちはのアジトだ」
「うちはの…?」
「ああ、」
ということは火の国内なのだろうか、少なからずダメージを受けている今のあたしに追手を撒くというのは少々分が悪い。
とは言えこの、目の前の喰えない男がそんな簡単に追手に見つかるような場所をアジトとして使用するようには思えなかった。
‥いや、どうだろうか。挑発としてわざと目立つ場所を選ぶような気もしないことは無いけれど。
「話は後だ、今はまだ体を休ませておけ」
「‥ん、ありがとうございます」
意識が薄れていく中、最後に聞こえたのは穏やかな笑い声だった。
生まれてくれてありがとう、そう言った彼女は今でも思うのだろうか。
120820
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