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何色にも染まっていないあの子だから、染めやすく染まりやすい。だからね、今からあたし色に染めてしまえば、真っ黒なあたし色に染めてしまえばもう他の色には染まらない。そうでしょう?
「ね‥ぇさん…?」
「サスケ、おかえりなさい」
「そん、なことより‥周りが、っ‥みんながっ!」
「ん?あぁコレ?死んでるね」
足元に転がっていた見覚えのある男を足で触ればサスケの小さな悲鳴が聞こえて思わず口元が上がってしまう。
「怖い?あたしが」
「やめてよ…姉さん‥」
「フガクさんとミコトさんの最期、サスケにも見せてあげたかったよ」
「やめて…いやだ‥」
大きな目から涙を溢して耳を塞ぐ姿は本当に可愛らしくていじらしい。その顔が苦痛に歪むたび、その瞳が悲しみに帯びるたび、憎しみに染まるたびにあたしは満たされる。
「そうだ、サスケにも見せてあげる」
「い、いやだ…っいやだ!!やめて‥やめてよ名前ねえさん!!」
「ほら、あたしの目を見て?いい子だから、ね」
力なく倒れこんだサスケの頭を一撫でして綺麗な髪に1つキスを落として、闇へ向かっていった。
月読を二度も使った上に無茶をし過ぎたせいで覚束ない足取りのあたしに不意に浮遊感が襲ったと思えば非常に愉快だと言わんばかりの男の姿があった。
「嫌な人ですね」
「お前が、いや名前が望んだことだろう?」
「さあ、どうでしたっけ」
渇いた笑い声は虚しく響いた。
120815
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