▼ 24
器用であたしたち兄弟に偏りなく愛をくれた母、不器用で分かりづらかったけれどそれでもちゃんと愛してくれていた父。
息苦しそうに浅い呼吸を繰り返しながら、時たま咳き込んだそこから血を吐こうが、その瞳にはしっかりとあたしを映していて困惑と悲しみ、嫌悪と憎しみ、いろんな感情を表していた。
「名前…、」
「母上、…あたしね、」
「いい…のっ、」
すでに意識が朦朧としているのか苦しさからか、母はあたしに微笑んでいた。
どうして微笑んでいられる?あたしは貴女を裏切っているのにも関わらず、どうして、そんなに穏やかに笑っていられる?
「気付いて、‥あげら、れなくっ‥て」
「な、にを…」
「ごめ…っ、ね…っ!」
自身の血で濡れた手をあたしに伸ばして涙と血で汚れた顔で、あたしに微笑む姿は酷く、綺麗で恐かった。あたしを守っていてくれたその手を、掴んでしまいたかった、引き寄せて今にも解毒と治療を施してしまいたかった。
けれどいっそ思いに任せて喉を掻っ切って楽にもさせてあげたいとも思った。
徐々に墜ちていく手を眺めながら視線を動かせば殺気と狂気、気迫、どの言葉も当てはまらないようなそれこそ鬼や妖怪だと言われたほうが納得できると思うぐらいあたしを殺したくて堪らないといった父の姿があった。
「きさま…っ、」
「ねえ、娘に殺されるなんて…今どんなきもち?」
「何度殺してもっ、‥っ、足りないだろ‥っな」
「あたしね、今まで幸せだった」
「ぬかせ…っ!」
大きく咳き込んだ拍子にボタボタと血を吐く父に顔を歪ませれば、父の表情には憎悪が色濃く現れた
「この里もそれなりに好きだったし、イタチさんやサスケだって愛してるし、家族だって大好きだった。守りたかった」
「だ、まれ‥っ」
「でもね、誰かの手によって壊されるくらいなら」
「だま、れっ!」
「あたしが、壊しちゃえば…みんなの最期は、あたしでいっぱいでしょう?」
ニィッ、と釣り上った口元に指を当てて下唇をなぞれば冷気を帯びたのを感じた。なんだろうと指先を見れば誰かの血が付着していて更に頬が上がった気がした。ふふ、愉快だなあ。
「あたしを恨んで死んで?死んでもあたしを恨んで憎んで忘れないで?」
そう、ずっと忘れないで。あたしの存在を、あたしが居たことを
それが憎しみであってもいいの、むしろ憎しみの方がいいの、そうすれば絶対に忘れないから。いつだったかあたしが彼女を恨んだあの日のように。
120815
prev / next