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任務を早々に終わらせたあと自室で木の葉の忍として、最後の任務準備をしていた。
今日は父が居ないことも、兄が任務だというのも事前に把握していた。それにサスケはアカデミーに行っていたし母は近所の人と出掛けるのを見送ったばかりだった。
つまり家で一人になれるということを、把握していた。
母の実力がどれほどのものかは知らないけれど兄に勝てないあたしがきっと母に勝てる見込みは限りなく低かった。だからひと月ほど前からあらゆる暗器や毒煙幕といった罠を作成していた。そっと毒煙幕の入った袋に手を触れれば確かにそこにはソレがあった。
兵糧丸や包帯をポーチに入れ手裏剣ホルスターとクナイホルスターを取れないようにきつく体に巻きつけ愛刀を腰につけたあと邪魔にならないあたりにいくつかうちはに関わる巻物を忍ばせておいた。
――準備はできた
静寂が続く家を見渡せば、小さなころの記憶が甦った。小さなあたしをぎゅっと抱きしめ笑うイタチお兄ちゃん。初めて這い這いした時まっすぐと父のもとへと向かったあたしに微笑みながらもどこか悔しそうだった母の顔、普段表情を変えないのに嬉しそうにしてた父の口元。あぁ、サスケが生まれた時にはみんなで名前を決めてたっけ。
この先の道は辛いことが多いかもしれないけれどそれもいいと思える、今日まで、今この瞬間まで幸せだとあたしは胸を張って言えるから
「…ありがとう、大好きよ」
今までも、これからも。
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顔馴染みに刀を突き刺す瞬間、恐怖と憎悪、驚愕に満ちる瞳、逃げまどう近所の子供たち。ただ無心に刀を振るい命の灯を消していく、まるで作業のように延々と続けていけばどこか別の場所からも気配が1つ1つ消されていっている事に気がついた。
「俺は待たされる事はあまり好かないものでな」
「短気ですね。」
「それにしてもうちはの人間だったとは驚いた」
「知ってたくせに」
「さあ、どうだったか」
顔を覆う面は相変わらず闇の中でも己を主張する。返り血をいくつか浴びたあたしと違い彼はかすり傷どころかほんの少しの汚れすらも見当たらない。
所詮あたしは親の七光りであり兄の七光りなだけで愚かにも強いだなんて錯覚していただけに過ぎないのだと、こんなときにも実感した。
「あとは父と母だけ。先に此処から出てください」
この男に彼らの、愛しい存在を知られる前に、と早々に里から出るように言えば男は何も言わなかったけれど赤い自身の瞳を細くして消え去った。
それを見届けて両親の元へと走り出した。
鎮まりかえった集落に、また、赤が増えた。
120815
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