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それはただの契約の一つでしかないのだから。何十年も待ったこの幸せを他人の手で壊されるくらいならあたしが壊してしまえばいいのだと、信じるものはただ己だけでいいんだと強く思った。例えそれが間違った選択だとしても構わないとさえ思っていた
「あたしには守らなきゃいけないものがある。壊さなきゃいけないものがある。」
「ほう、相反するものをこなすか」
「要らないものは取り除かないと、排除しなければ、幸せになれないもん」
そうでしょ?そうだよね?
そう笑った少女の紅い目が狂気に満ちていたのを知るのはただ一人、目の前の男のみだった。
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「お前は何故そこまで、うちはに執着する?」
「うちはになんて興味ない」
「では何故里を出るのを拒む?」
「焦らなくてもあたしは逃げたりしませんよ」
からかい半分に返せば男は小さく笑った後、それもそうだ、と呟いた。
それを聞き流しながら、彼らのことを思い出していた。あたしが居なくなればきっとあの人は自分を責めるだろうしあの子は悲しむかもしれない。それでも、いいかもしれない。
あの人が自分を責めれば責めるほど、"あたし"は彼の記憶に刻まれる。あの子が悲しめば悲しむほど"あたし"は彼の想いに刻まれる。
それこそ死ぬその瞬間まで、
「さあ、もう暫しお待ち下さい。そろそろ頃合いだとは思っていましたから」
「相も変わらずいい眼をしてくれる。」
憎悪に塗れた漆黒の瞳が映すものは、果たして闇ばかりかどうか
「ま、丑三つ時までには迎えに来て下さいよ」
「ああ、勿論だ。名前」
「では、行ってきます。…マダラさん」
120815
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