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最近イタチ兄と父との関係があまり良くないことにあたしも、サスケも気付いていた。
事の発端は、父がサスケの入学式に出席しないと言いだしてからだ。それにはあたしもイタチ兄も本気で怒って最終的にはイタチ兄が任務を休むと発言したことによって渋々納得してくれたのだが、あの時ほど父に腹が立ったことは無い。
「あれ、2人ともどうしたの?」
「あ…姉さん、」
「…そうだ、名前もオレがうとましいと思うか?」
「何、急に。別に何も思わないけど」
縁側で座っていた2人に声をかければ返って来た質問に驚いたけれど、恐らくサスケがイタチ兄に羨ましいとか、父が、だとかそんな事を言ったのだろうと大凡を把握した。
「まぁお父さん一人占めはずるいよ、ね?サスケ!」
「え、そんなっ…う、」
「あらら、ごめんごめん。そんな思いつめなくても」
気まずいのか、どうしようと考え込むサスケにちょっとやりすぎたかと慌てて謝ればサスケの向こう側から伸びてきた指があたしの額を弾いて思わず尻もちをついてしまった。
「いたっ」
「あんまりサスケをいじめるなよ?」
「えーっ、いじめては無いよう」
久しぶりにあたしたち兄弟で話をしていたと言うのに、玄関の方で大きな音が聞こえてあたしたちは顔を見合わせて玄関へ向かえば、あまりいい雰囲気ではない面々が立っていた。
玄関から死角になる場所でイタチ兄はあたしたちに待つように言って一人玄関へと向かって行った。
「…何です。みなさんお揃いで」
「昨日の会合に来なかった奴が二人いる…お前は何故来なかった!?」
昨日の会合と言えば、一昨日夜遅くにイタチ兄と父と母が何か話していたのは知っている。あたしは部屋に籠っていたから詳しくはわからないけれどサスケは何か心当たりがあるようだった。
イタチ兄たちの会話を盗み聞きながら思考を巡らせていると、シスイさんが自殺した、という言葉に思考は停止した。
――シスイさんが、自殺…?
シスイさんと言ったらイタチ兄と仲が良くて、あたしたちにも良くしてくれて、あたしもシスイさんが大好きだったのに、どうして‥。
「…そうですか…最近は全く会ってなかったが…、残念です…」
あたしたちの場所からはイタチ兄の後ろ姿しか見えないけれど、イタチ兄はあまり実感が湧いていないのか淡々と返していって少し不安になりながらも見守っていた。
だけれど、家に来たうちはの者たちは明らかにイタチ兄が何かしたと言いたげで思わず飛びだしそうになったあたしを止めたのはサスケだった。じっとイタチ兄を見つめながら震える手であたしの服をぎゅっと握って耐えていた。
けれどそれも束の間だった。
「オレを疑ってるってワケか?」
鋭い殺気が玄関に膨れ上がりサスケは驚いて身を引いていたけれどあたしは彼らの返事を聞くと同時に飛びだした。
――あぁ、そうだ…クソガキ
―― 一族を裏切る真似をしてみろ、タダじゃ済まさねーぞ
イタチ兄をクソガキと言った一人に渾身の力を込めて蹴りあげれば油断していたのか思いっきり懐に入ったようだ。イタチ兄も残りの二人を家から追い出していたがあたしが手を出すとは思っていなかったようで驚いていた。
「…、一族、一族…組織に執着し一族に執着し名に執着する…」
「お兄ちゃん、こんな奴らに説教したって無駄よ」
「ああ。だがな、己を制約し己の"器"を決めつける忌むべき事…未だ見ぬ知らぬモノを恐れ憎しむ愚かしき事!!」
イタチ兄はあたしたちの兄であるべく、必死に足掻いてきた。あたしはそれを知っているからこそこんな奴らに、うちはの名の事しか考えていないような奴にイタチ兄の事をバカにされた事はあたし自身の幸せをバカにしたのと同じ下劣な行為。
「止めろ!!イタチ!名前!!」
「…っ、お父さん」
どうしてお父さんは分からないのだろうか、こんなにもイタチ兄を見ていてどうして気付かないのだろうか。イタチ兄は皆の言う通りに従って来たのにこんな仕打ちはあんまりだ。
「――隊長、拘束の命令を!!」
「っ‥黙れェ!!!」
「兄さん!姉さん!!もうやめてよ!!」
あたしの怒鳴り声とサスケの悲痛な叫びが響き渡った時、イタチ兄はゆっくりと膝まづいた。やり場のないこの怒りを鎮めようと力を込めた手のひらに紅いしずくが零れおちた。
膝まづくイタチ兄の写輪眼が変化したのを知るのはきっと、あたしとサスケだけ。
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