愛迷イズム | ナノ

30

嫌なわけじゃないの。でもね、


  悲劇のヒーローは、


しばらく呆然としていて、意識がハッキリしたときには幻術が解かれていたようで、薄暗い森のなかで立っていた。
インカムからの、テンゾウの焦った声を聞く辺り長い間術中に居たようだ。
私に近付く人影を見ながら、取り乱すテンゾウに声をかけると怒鳴られてしまった。"心配しました!"とか"ちゃんと応答してください!"って言うのは良いとして、"名前さんもカカシ先輩と同類ですか!?"と言うのは頂けない。私は官能小説を街中で読まない(そもそも見ない)し、あんな遅刻魔じゃない。断じて違う。


「…急用が出来たから、先に宿に戻っていなさい。30分経って通信入らなかったら里に連絡して。」


要件だけ伝えて通信を切ると同時に、人影に日が差さして顕わになった。


「気分はどう?」

「…変わりない。が、胸の痛みが消えた」

「そう、よかったわね」


一応、成功はしているみたいだ。とは言え完全には消えていないのだから安心するのはまだ早いのだけれど。
癌と同じで、細胞事態に異変が起こっているわけだから1つ1つの細胞を治すなんて無理に等しいのだ。


「…仲間への返事が、オレへの答えと受け取っていいのか」

「そうね。…キミの元へは行けないわ」

「そうか‥、」

「私にも守らなきゃならないものが出来たからね。」


言い切る前に感じた温もりに、体を委ねて今度は私からも強く、抱きしめた。


「…また、」

「うん。…またね」


額に感じた温もりを自覚した時にはもうイタチの姿はなくなっていた。いきなり現れていきなり消えるのは変わらないのね。
木漏れ日がやけに綺麗に見えて、同時に酷く寂しくも感じて、目を伏せるのと同時にテンゾウを迎えに私もその場を立ち去った







私の顔を見るなり、あれこれとうるさいテンゾウを見ると苦労してるなぁ、なんて思う。


「単独行動だなんて普通あり得ませんよ!」

「テンゾウだって標的一人でやったじゃない」

「あれは名前さんの指示でしょう!?」


あ、やばい。また騒がしくなる、なんて思ったら案の定、ああ喧しいよう。
隣でキャンキャンとわめくテンゾウを横目で見ながら、元気だなあ、なんて思ってたのに


「今日の事カカシ先輩に言い付けてやりますから!」

「え、ちょっと、それは反則。ダメ絶対。煩いからアイツ」

「いーや、絶対に言いますから!」


完全に不貞腐れているテンゾウに溜め息をついて小さくばれないように口はしを釣り上げた。
面を外してテンゾウの口端に口付けてやれば耳まで真っ赤に染め上げて口をパクパクしているところに色の任務の時のような笑みを作ってあげる


「既成事実、ね?テンゾウが今日の事ナイショにしててくれたら、今の事、ヒミツにしてあげる」


ツツ、と彼の顎を指で滑らせながら上目遣いでテンゾウに言えば、あんなに真っ赤に染め上げた顔を今度は真っ青にして何度も頷いた。
やっぱりテンゾウって扱いやす…まずい、これじゃカカシと同類って言われても否定できない。



「じゃ、今日はお疲れさま」

「ハ、…ハイ。」


束の間の休みは充分堪能しないとね。どうせまたすぐに次の任務が待ってるんだもの


120502

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