29
悲しくはない。辛くもない。あるのは虚しさだけ。
過去では確かにキミがいた
イタチの幻術の世界でたった二人の世界で互いの熱をわけあったら、二人が1つになれたら、きっと。
「名前、あの日のあの言葉…あれはどういう事だ」
「…そんなことより、もう少し再会を喜ばない?」
「別に嬉しいことはない。」
ほんの少しだけ口元を緩ませながら言われたって説得力がないわ。相変わらず天の邪鬼なんだから、と呆れつつもどこか嬉しがった私がいて、どうしようもない。
「あの日、まさにここでだ。」
「…あのままよ」
「オレ以外に知るものは?」
「…居ないわ。」
私が、イタチにだけ話した、私の秘密。
「私は一途よ。気に入った人は裏切らない」
「…不思議な事を言いますね」
「何故、オレに話した」
「言ったでしょ?気に入ったからよ」
「質問を変える。何故、オレ以外に話さない?カカシさんや火影に話さないのは何故だ」
「…さあね」
イタチの腕から抜け出して日向に出ると幻術の中だと言うのにジリジリと日差しが痛い。
もう覚えてないけれど、あの日もこんな暑い日だったのかしら、自然と笑みが込み上げる
「ねえ、イタチ?」
「何だ」
「キミはやっぱり生きなきゃだめよ」
お酒を飲んだみたいに、気分がいい。笑みを浮かべながらそう言った私に、意味がわからないといった風なイタチにやっぱり笑みが込み上げる。
「あの子のためにも、ね」
素早くイタチの前に立てば、反射的に逃げようとする彼の手を掴んで阻止する。何だか前もあった気がする。一瞬の隙を見て左手にチャクラを流し、イタチの両胸の中間辺りに突き刺すように手を当てれば指先から鈍い痛みが体をめぐる。
「っ、やめろ!」
「黙ってなさい!、っ」
チャクラを流せば流すほど、身体中に痛みが伴う。…大丈夫、こんなんじゃ死んでやらないし。それより、分身だから意味ないって事はないわよね?何損なわけ?ありえないわよ?
そんな事を考えて居たからか眉間に皺が寄っていたらしく、イタチが心配そうな、焦ったような、辛そうな、そんな顔をしているのに気が付いて、微笑んでやったのに今度は泣きそうな顔をしてしまった。
「…お前は、名前は、どこまで見えているんだ」
「どこまで、っ…、なのかな」
「オレは、S級犯罪者だぞ…何故、」
「犯罪者だろうが、イタチに…っ、変わりな、いし」
そろそろ限界だ、集中を切らさないようにそうっと手を抜けば気も抜けたらしく体がフラついた。地面が目前に迫って来るであろう衝撃を覚悟して目を瞑ったのに、感じたのは暖かな温もりだった。
閉じた目を開けば、先も見た泣きそうな顔。でも、何処か嬉しそうな顔。
痺れの残る手でイタチの頭を撫でてあげる。昔はよくしてあげてたな、あの頃のイタチは頭を撫でてあげると嫌な顔をしながらも受け入れてくれてた、
「…名前」
「余計なお世話だった…?」
「オレと一緒に来ないか」
やっぱり嫌だったかな、なんて思ってたのにあまりにも見当外れな事を言うから、本当に、ビックリした。
120502
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