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笑うことが増えたキミに嬉しさが溢れ出すのよね。
霞んだ眸に色彩を
ナルトは今日、用事があると言って朝から出掛けてしまったので、久しぶりに修行をしに演習場へとやってきた。
本当は誰かに付き合って貰いたかったのだけれど、生憎すぐに連絡がつきそうな人たちは任務で出払ってしまっていたのでしょうがない。
基本的な所から始めて、筋トレや柔軟、術の確認を済ませて一度休憩しようと一息付くと何者かが近づく気配を見つけ、敵かと警戒したけれどどうやら勤勉な可愛いお客さんらしい。
「そんなところに居ないでこっちへおいでよ」
「!、…っ」
木の陰に隠れていた彼に声をかけると少し動揺したようだったけれど、澄ました顔で陰から出てきたのはナルトと同じくらい知られた子、――うちはサスケ。
「キミ、私を観察していたの?」
「別に…たまたま通りかかっただけだ」
「そう…、随分のんびり屋さんなのね」
暫く私を観察していたのは分かっているのよ。とは言わないけれど、クスクスと笑い声を漏らせば不快そうに顔を歪めてしまった。折角綺麗な顔をしているのに台無しね
「それで、私に用かしら」
「……別に」
どうやらこの子は拗ねてしまったらしい。相変わらず子供の扱いは苦手だな、と思って苦笑すれば今度は舌打ちされてしまった。短気は損気って言うの知らないのかしらね。
「それじゃ、気を付けて帰りなさいね」
最近になって漸く子供の扱いには慣れてきた、それにこの子は本当に分かりやすいし。して欲しいこと、言えないことがわかるからこそ意地悪したくなってしまう私も大概子供かな、と考えて自嘲的な笑みを溢した後、彼に背を向けて印を組む。
「…な、っ」
「?、どうしたの?」
「いや…、今の術は、」
目を真ん丸にして私に問いかける彼は、年相応でちょっと安心。“うちはの生き残り”であるこの子は周りから同情や畏怖の目で見られてきた事は、言わずもがな…、
「うん。今のは、水遁 水牙弾の術だよ」
見たことあった?とヘラリと笑えば、眉を寄せて彼は言葉を濁らせた。
イタチに託されたこの子に何度も会いに行こうと、何度も迎えに行こうとしたけれど、上層部に阻止されていた。まあ、陰から見に行ったりしてたんだけど。
「アンタは…、」
「名前」
「は?」
「アンタじゃなくて、私は名前」
やっと、堂々とキミに会えるなら名前ぐらい呼んで貰ったって罰は当たらないでしょう?
ふふ、と笑う私に小さく舌打ちをしたあと、(相変わらず不機嫌そうだったけれど)私と視線を絡ませた
「サスケだ、」
「え?」
「俺の名だ。…名前」
目をそらしながら私の名前を呼ぶサスケは、本当に可愛くて、抱き締めたい衝動を必死に抑えて目線を合わせると、何処か怯えた視線とかち合った。
「サスケ」
「っ、…なんだ」
「アカデミー卒業おめでとう。」
綺麗な黒髪を優しく撫でてあげると、私の手を小さな手で握りしめた。下を向いていたから表情は分からなかったけど光に反射して輝く滴が落ちたのは、見なかったことにして私は微笑んだ。
(オレを褒めてくれる人たちは、もう居ないはずだった。)
120217
title:驕児
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