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目が覚めた我愛羅が私に引っ付きながら夜叉丸さんに笑顔を向けていて、何だかいいなぁと思った昼下がり。
どうか忘れないで
少し寝たからか、元気一杯になった我愛羅が私の首に巻き付いて少し苦しいけれど、可愛いので許すことにする。
今日はいい気分だな、なんて思った矢先上空で高く鳴く一匹の鳥に小さくため息を吐けば夜叉丸さんに困ったような笑みをかけられた。風影サマも大概暇人だよね失礼だけど。
首をかしげる我愛羅に用事が出来たから、と帰るように促せば私の腰をガッチリと掴み、胸に顔を埋めて動かなくなった。
「我愛羅、明日もあるじゃない」
「…やだ」
「わがまま言わないの」
少ししかりつけるように言うと、私の服をギュッと握ったのがわかった。
「……だってもうすぐ名前さん、いなくなっちゃう」
「すぐには居なくならないわよ?」
「ちょっとでもいっしょにいたいんだ!」
キザな台詞も我愛羅が言えば可愛らしく思えてつい甘やかしそうになるけれど、今日はそういうわけにもいかない。
「今日はダメなのよ。わかって?」
「…我愛羅さま、」
今まで黙っていた夜叉丸さんが声をかければ、我愛羅は目に涙をいっぱいに溜めて私たちを睨んできて、少し、ちょっと、いや、だいぶ悲しくなった。
「ごめんね、我愛羅」
「…ん」
1人でここにいると言うので仕方なく置いていくことにして、夜叉丸さんは私を風影邸まで送ると言ってくださり、お言葉に甘えた。
「我愛羅さまがすみませんでした」
「可愛いじゃない。気にしてないわ」
それよりも、と一度区切って夜叉丸さんを見る
「もしも、…我愛羅を殺せなんて命があったら、」
「な…っ!」
「ふふ、ごめんなさい。忘れてください」
風影さまの性格や執着、夜叉丸さんの位置。そして任務放棄をする使えない私。
きっと風影様なら、私の言ったことに近いことはすると思う。…だって夜叉丸さんは使える"駒"だから。
ならばいっそ私が殺してしまえば、…なんて、私は戦争でも起こす気?愚考にもほどがある。
それからは互いに口を開かなくて、風影様の元についてからは目すら合わさなくなった。
風影様は相変わらず私を敵視していて、暗部や控えの忍からの視線が容赦なく体中を貫く。異様な空気の中暫く無言が続いて、限界に近づいたとき漸く風影様が口を開いた
「任務期間終了にて、この里から出ていってもらう」
「…そうですか。しかし、」
「やつには会うな。一刻も早く里を出ていけ」
――…私の勘は、よく当たる
111229
title:噂のあの子
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