16.運はいろんな形をして現れる。 とすれば、どうしてそれがわかるのだろうか。※
漠然とした不安は足取りを早め、気がつけば駆けていた。
自分の帰りを待つAだけを思い浮かべて。
「A、ただいま。」
「ああ、おかえり。」
最近、Aが目を合わせてくれない。
それがとても悲しくて、カルナは少し俯いた。
「アルジュナと一緒に帰らなくても良かったのか。」
「なぜそうなる。オレに帰って欲しいのか?」
「そんなわけないだろ!」
A自身、何が言いたいのかわからなかった。
カルナは首を傾げて、Aの次の発言を待っている。
Aは発言できないで、変にギクシャクして、部屋が静まりかえった。
沈黙を破らぬまま、Aがカルナに歩み寄る。
2人目を合わせて、見つめあった。
白い瞼の下瞬くガラスのような青に、自分が写っている。ちゃんと写っているのに、胸の締まりが緩むことはない。
Aの惑いを視認して、カルナはその頬に手を伸ばした。少しでも、その人の支えになれればと。
刹那、Aはカルナの腕を引いて、ベットに押し倒した。Aはカルナの唇を唇で塞ぎ、手を手で抑え、脚を脚で固定した。このままするのだろうと、カルナは全身の力を抜く。その瞬間を、いつもAは心待ちにしていた。
どうしたって受け入れてくれる。
どうしたって赦してくれる。
それだけがAに理解できるカルナの全てなのだ。
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もうすっかりAの形を覚えた穴が、ジュポジュポと泡を立て擦れ、赤く腫れていた。下半身はいうことを聞かず、ふるふると弱く震えるだけで全く使い物にならない。雄として使われることの無い陰茎はAの動きにあわせて腹に体液を撒き散らすだけの、哀れな存在になっていた。
回数を重ねる毎に激しくなっていく情緒に、カルナの身体はもう限界に近く、もういつ気を失ってもおかしくはない。
それでもカルナは構わず、Aの顔を見る。
Aは眉を寄せ、瞳に水の膜を作り、歯を食いしばり、押さえつけるだけに必死になっている。
Aが苦しむ理由など、カルナは知りもしない。
ただ漠然と、自分のせいなのだろうとだけ理解していたが、謝罪の言葉を口にしても叱責され、より縛る手が強くなるだけだった。
宥めようにも腕は赤くなるほど締め付けられ、キスをしようにも上体は持ち上がらず、舌を出しても気づかれない。
オレはなにをしているのだろうとただ揺さぶられるがまま、鳴き続けるしかなかった。
「お"ッ!あ"ッ、がっ!あっつ"、はぁあ"!」
打てる手はもうない
「あ"っ!やだッ……!」
そう気づいたとき、その口は拒絶の言葉を紡いでいた。
「え、あ。」
Aの動きが止まった。
カルナの胸の上で、ぼたりと大粒が弾けた。必死に抑えられていたはずの、Aの涙だ。
Aの力が抜けて、腕が動く。締められていた血の巡りを感じる。カルナは痺れなんの感覚もない指先をなんとかその背にまわし、愛撫しようとしたが、Aはその力のない腕を払い、自らの涙を拭きっとっていた。
「A?」
「好きだ、カルナ。」
「知っている。」
カルナの体内からいつの間にか萎えていたAのモノが引き抜かれた。
だらだらと閉じきらない穴から白濁が零れ落ちる。カルナはそれを行き場のなくなった手で塞いだ。
「ほんとに、好きだぞ。」
「疑ってなどいないよ。」
Aは指でカルナの指をつたって、そのまま体内に押し込むと、カルナの指ごと前立腺を圧し潰した。
「ひぐっ!」
くにくにくちゅくちゅと弱いところを責め立てられ、絶大な快楽が全身を支配する。カルナの身体がどうすれば悦ぶか熟知しているその手が、カルナの手にそれをひとつひとつ教えていった。
Aがカルナのもう片方の手の指を、膨れ上がった乳輪にあてがった。きゅっと摘むと柔い電流が流れ、下半身が締まる。
気持ちよくて気持ちよくて、撫でる手が止められない。
薄く目を開けるとAが動いていないのがわかる。
撫でているのは自分の指だけで、Aの指は気づかない間に引き抜かれていた。
Aが微笑みながら、しかし舐めるような視線でカルナの肢体を凝視する。
今カルナが乱れているのは間違いなくカルナ自身の手によるもので、自分の穴に指を差し込んで必死に掻き回し、快楽に悶える姿は滑稽そのものだろう。Aの目が律動を繰り返すそこにいって、忘れかけていた羞恥が吹き出した。
「あっ……!」
反射的に、限界まで開いていた股を閉じていた。力のない、ささやかな抵抗だったが、視界を遮るにはじゅうぶんだ。それをみたAから微笑みが消えた。Aはいつの間にか衣服を整えており、カルナから目を背け立ち上がると、口を開いた。
「カルナは俺がいなくてもいいんだな。……知ってたよ。」
そういうとAはカルナに背を向け、玄関口へ足を進めた。
カルナはなんとか止めようと体を動かしたが、やはり下半身は動かず、重力に引かれるままベットから落下した。疲弊した身体が床に叩きつけられて、意識が吸い取られるようだ。必死に手を伸ばしても、もうその人は去った後で、伸ばした手が落ちると同時に意識を失った。
最後に感じたあたたかさは、体温なんてものじゃなくて、カーテンの隙間から差し込む夕陽のものだけだった。
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bkm