本当に、
2017/02/26 23:22




「工藤新一?あぁ、あの日本人の監察医先生か」
「はい、なんか俺と似てるらしくて。就任早々皆さんが」
そう、FBIに入ったばかりの俺は現在27歳。そうして件の工藤新一も同い年。
しかし飛び級を重ねたという彼は既に周りから認められる程の実力を備えてバリバリ仕事をしているらしい。

少しだけ会ってみたいと思ったりして。

「確かに、けどドクターはなんかこう。・・・言い表せんが決定的に他者とは違う。」
「それはまた」
何の話かは理解出来ないが、言いたい事はなんとなく理解できた。

『工藤は多分ネクロフィリアだろ』
『よせよ、新入りの前で。違うんだ黒羽、こいつ先生に振られたはらいせさ』
『はらいせなもんか!一日中死体に魅入られたみたいに、生きてる人間になんて興味ないんだよ』

そんな話も聞いた。
ネクロフィリア。
死体愛好者。
日本人という此方では割と珍しい人種でありながら、肌は驚くほど白く漆黒の黒髪。
噂で聞く彼はなんだか本当に実体があるのか疑うには十分な人物像だった。




「それ以上入んな。とにかく硝煙くせぇ体どうにかしてからもっかい来い」

投げかけられた言葉に唖然として、死体発見後から服も着替えずシャワーすらしてなかった自分を見返して、溜め息をつきながら備え付けのシャワーに向かう。
(工藤新一、初めて会ったけど口悪すぎ。)
視線さえ向けられず言われた言葉はスラング混じりで、


部屋に入った瞬間のあの感情を思い出す

ぞっとするような、息が止まる様な。
魅入るとはこういう事を言うのだろう。
美しい烏の濡れ羽色をした髪が、抜ける様に白い肌に。
まるでおとぎ話のお姫様の様に。
やや薄めの淡い桃色をした唇。
うっすらと開いた唇から覗くのは白い歯と赤い舌。
すこし濡れた様な、美しい空色をした蒼い瞳。
白衣を着た少し華奢な体から、言いようのない色気を感じた。

「それ以上入んな」

強く拒絶を示したその顔すら美しくて、何を言われたか理解する頃には本人は死体と一緒に奥の部屋へと入室した後だった。

「工藤、新一」

実在した人物だった。
噂でしか聞いた事のない、美しい日本人。
生きた人間に興味のないネクロフィリアと噂される彼は、血の流れた人形の様に目の前に現れ、顔からは想像も出来ない荒い言葉遣いで。


「とりあえずシャワーしたらもう一度行かないと」


誰にともなく呟いて、いつもより念入りに体を洗った。
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