お肌のまがりかど
2015/05/17 23:24
午前零時、
「お、良く来たな黒羽」
「待たせちゃったかな?」
明かりを付けてギリギリまで仕事をしていた新一は、パソコン作業の時だけ身につける黒縁の眼鏡をはずしながら朗らかに笑う。
そっと顔を覗かせたのは、一カ月ほど前に同じ時間でばったり出くわした営業課の黒羽快斗。
あれから一週間に2回ずつ同じ時間に合って、そうして今ではこうして夜食を共にする仲になった。
「今日は金曜日、というか土曜日だからお疲れ工藤に優しい和食にしてみた」
そう言って開かれた弁当箱の中にはふろふき大根に筑前煮、スナップエンドウのからし和えに昆布巻き。それから小ぶりのおにぎりが詰まったお弁当。
茶色めのものが多いかと思いきやスナップエンドウや筑前煮のにんじんと絹さやが彩りをつくり、ちいさなおにぎりの上に乗るようにしたしゃけや梅などの鮮やかさで見た目からして美味しそうだ。
初めの何日かは二人で珈琲(といっても新一のはブラック、快斗のはコーヒー牛乳であったが)を飲んでいたが、夕飯を食べていないと言う新一の夜食がカロリーメイトなるスピード重視の栄養補給だったことに衝撃を受けた快斗が夜食を二人で摂る様に決めた事から始まった。
食の細い新一にどれだけ食べさせられるかがいつもの試練である。
「美味しい。味が染みた大根ってこんなに美味しかったっけか。筑前煮もすごく好みの味付けで本当に疲れた胃を労わってもらってる気がする」
嬉しそうに笑うその顔が見れただけで本望だとも言えず、照れ隠しに咳払いをひとつ。
こほん、
「体持たないだろ。きちんとご飯は美味しく食べて、そうして睡眠だって大事なんだからな」
やや説教くさくなりながらも言えば、神妙に頷いた後
「昨日は仮眠室で3時間も寝れたから大丈夫」
仮眠室で、三時間。
「いやいやいやいやいや、大丈夫って基準が工藤は人と違い過ぎるから!それは大丈夫って言わないよ!寝て。もっと寝て!せめて5時間は寝ないと体が休まらないよ」
慌てていっても、小さな口で小ぶりのおにぎりをもぐもぐと食べる小動物・・・じゃなかった、工藤新一はきょとんとした顔を崩さす、小首を傾げた後こくりと口の中のモノを飲み込み
「黒羽って、お人よしで世話焼きだな」
母さんみたいだ。
続いた言葉にがっくり肩を落とした快斗の心中を、スナップエンドウをぽりぽりと食べる新一が気付く事は無い。
仕事も出来て、容姿端麗で、竹を割った性格の接しやすい彼は、極度の鈍感なのだから。