デスティニー
2014/01/03 22:46



「あけましておめでとう」
「おめでとさん」

あれ、なんだこのどうでもいい感。
あっさりと返された返事は、けれど新聞を読みながらのもので。

(あれ?初詣で行くかって言ったの工藤だよな?!)

どこか此方を放置する様なその態度は一体何なのだろうか。
何か怒らせるような事したかな?とは思うが、きっと今日も起きるのは遅めだろうと10時に工藤の家を訪ねたのだけれど、玄関のカギは閉まったまま。
家の中に主の気配がするにもかかわらず、チャイムを鳴らしても出やしないのに焦れて勝手に開けて入ってきたわけだが・・・

チャイムといい今といい、明らかに怒ってる?

「ごめんな、工藤」

謝っては見たが、怒りの感情も何も感じないその表情はまったくのいつも通り。
なのに、対応がいつもより少しだけそっけない。
大体自分から誘いを入れた時はこっちの言葉さえ気付かずにさくさく我が道を行くくせに。

はて、しかしこの態度はどこかで一度見た事があるな。
そう思って、IQ400と言われる頭脳をフル回転させてその記憶を探る。

『別に、お前が悪いわけじゃない』

そう声が脳内と鼓膜に響く。
(あ、)
これはそうだ。
あの時と一緒だ。
彼の誕生日は前日から泊まり込みで0時丁度に祝った俺が、誕生日に空いているかと尋ねられて大いに喜んだ時。
彼の誕生日とは違い、平日に産まれた俺は普通に学校へ行き、放課後この家に来たのだ。
その時と同じ状況。

『お前が0時丁度に言った言葉を、俺も言おうと思って誘ったけれど言葉が足りなかったな、別にお前のせいじゃない』

彼の言葉が足りなかったのもあるが、自分がした事を相手も返してくれようとしていたなんて考えてもいなかった俺の確認不足でもある。
『ただ俺が、お前に祝ってもらって嬉しかったから同じ事をしたいと思っただけだ』
勝手に思っただけだから気にするな。
大変素っ気なく言い放たれたそれに大分凹んだ俺に、隣家の彼女、彼の主治医であり共犯者である灰原哀が言った「彼、昨日寝ずに待っていたようだったけれど?」という棘の含まれたものによってとどめを刺された。


「もしかして、初詣でって・・・」
「俺が31日の夜中に行って、新年を迎えつつのものだと思っていただけだ」

帰ってきた言葉にやはりと絶望する。
冬休み前にクラスでそういった事をすると騒いでいる奴らはいたが、工藤は基本夜中に出歩かないし休みの日は本を読み漁る。
だから余裕を持って来た10時があだとなったようだ。
また彼を昨日からずっと待たせていたと言う事実に死にたくなる。

「悪かった、俺が確認しなかったから」
「だから俺が勝手に思い込んだだけだ。お前のせいじゃない」

そう否定する時ばかりしっかりと目を見て言うものだから、その視線に俺はいと見を揺らす。
ぽろりと零れた雫に、見開かれた双眸がとても美しい。
歪んだ視界の中で尚宝石の様に煌めくそれが間合いを詰めて俺の傍により

「どうした、怒ってないから泣くな。お前の気遣いはちゃんと分かってる」

掛けられる言葉に、ふるふると頭を振る。
分かってない。工藤は肝心な事を分かっていない。

「俺は、お前の!工藤のッ」

ひっ、と喉がしゃくりあげるような音を出すが、構わず話し続ける。
こんな事がもう起きない様に、俺が彼を失望させない様に。

「新一の為に空回りばかりして、新一が思った事を叶えられないし、新一がしたいことも察せられないし、こんなにも想ってるのに、伝わらないっ」

何を言っているのかさえ分からなくて、取り敢えず想った言葉を口にする。
泣いているせいで所々詰る言葉を、けれども必死で紡ぎながらしっかりと目を見つめる。

「俺は新一のしたい事がしたい。察せられないかもしれない時は言葉にして聞きたい。だけどいつかそれら全部を理解できるような、お前の事ならなんでも分かる様になりたい」

何一つ、俺の知らない事なんてなくなればいい。
いつかそうして一つの個になったような、そんな感覚が欲しい。

「新一の大切なかげがえの無い人間になりたい。ずっと一緒にいたい!」

言い切った後、ふと我に返ったように自分の口から出た言葉が反芻される。
かけがえのない、ずっと一緒に入れる人。
そんなの告白以外の、プロポーズ以外のなにものでもないではないか。

何分、何時間そうして黙っていたか分からない。
もしかしたらほんの数秒だったのかもしれない。
目の前に立っていた新一がゆっくりと俺の目の前に立ち、両手を掬う様にして胸の前で握りしめられる。
きょろり、きょろりと泳ぐ視線を静かな気持ちで見つめられるのは握られている手のおかげかもしれない。

「俺は、言葉は足りないし、事件ばかりだし、お前を寂しくさせたり、不安にさせたり、待たせたりするかもしれない」

不器用に紡がれた彼の言葉に、こくりと頷く

「だけど、俺もお前に一緒にいて欲しい。一緒に笑って、怒って、泣いて、分からない事は話し合って、不安な時は抱きしめあって、・・・大事にもしたい」

白磁の頬にすっと赤みがさして、少しだけ潤んだ瞳が俺を見る。
同じ位の背丈は、少しずつ俺が成長する事で差を広げる。
ほんの少し上目遣いになるその距離にドキリとして、緊張から乾いた唇を舐めた紅い舌に背筋がぞわりと泡立った。

「俺と一緒にいてくれ、こ、恋人になって。・・・えっと、一緒に暮らそう」

一息に言われた言葉に衝撃が走る。
なんだこれは、急展開すぎる!と叫びたい気持と、嬉しくて恥ずかしくて乙女の様にコクリと頷きたい様な気持。
もしかして今日が命日?幸せが一気に降り注いで死ぬパターン?混乱する。

「俺が言いたかった事全部新一に言われちゃったけど・・・宜しくお願いします」

あと、俺の事ちゃんと名前で呼んで。
そう囁くように希えば、彼はふんわりと微笑んで

「末永く宜しく。・・・大好きだ、快斗」

爆弾を投下した。






* * *



わーい、リア充が爆発した!!!←
こいねがう、って漢字にするととてもショートショートね。
今年もよろしくおねがいいたします!
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