おしり
2013/12/19 00:03
「いらない」
「え?」
出された食事に手を付けない工藤君。
そっと様子を見る様に覗きこめば、なんだか顔色が優れない。
「体調が悪かった?」
主治医である自分が気付かないなんて、と悔しく思いながら病状を聞くと
「最近、家でしか飯が食えなくて・・・黒羽以外が作った奴は体が受け付けないんだ」
「あいつが遅くなった日には眠れないし、朝あいつがいないと起きれない」
「出掛けようとしても何を着ていいか分からなくなるし・・・」
どうしたらいいか分からないんだ。
そう言って身を守る様に蹲る工藤君を呆然と見る。
だって、それって、
(なんて依存)
常に人との間に境界を入れる癖のようなものがついてしまった工藤君が、懐に入れた人間だけに見せる表情がある。
けれどそれでも、ギリギリ肝心な部分には触れさせない様に一歩引いた態度で人とのかかわりを深めない様にしている彼の、まさかの発言。
それじゃぁ、黒羽君がいなくなったら工藤君はどうなってしまうの?
一抹の不安を覚える。
じっとりと知らぬ間にかいていた手汗を拭って、ゆっくりと工藤君に近づくとそのままの姿勢で寝てしまっている。
(そういえば、昨日はKIDの犯行日・・・)
一日中あの家で眠れぬ夜を過ごしていたのかもしれない。
そう考えてぞっとした。
「こんちは、工藤いる?」
「・・・黒羽君」
ベッドにでも移動させなければと思っていた時、突然聞こえた声に少しだけ体がこわばる。
「・・・黒羽君」
どう言えばいいのか整理しながら、ゆっくりと相手を見つめれば黒羽君が私を振り返り小首を傾げた
「どうしたの、哀ちゃん。」
もしかしたら彼は何も理解せずに工藤君を駄目にしそうになっているのじゃないかしら。
そんな心配が渦巻いて、思わず
「これ以上工藤君を甘やかしては駄目よ。このままでは貴方がいないと彼は・・・」
どう続けていいか分からず視線を彷徨わせる。
コツン、
足音に思わず視線を上げれば、横抱きに工藤君を抱えた黒羽君が私を見て・・・笑った
「俺がいないと、生きていけなくなる?」
そう言って笑う黒羽君に、何故だか背筋がぞくりとする。
意識して飲み込んだ唾液は、ごくりと喉を鳴らして緊張を伝えている様。
「上等、俺は、工藤を、俺無しじゃ生きられない体にしたいんだよ」
あぁ、彼は全てを分かって、計算した上で全てやっていたのだ。
彼の全てを、自分とつなげる為に。
それはとても恐ろしい事で、しまいには体が細かく震える様な恐怖を生んだのに、
(羨ましい)
工藤君にとって、唯一。
自分なしでは彼が生きられないなんて、それはとても甘美な。
一時味わった、自分の作った薬によって彼の人生を左右した時を思い出す。
それは罪悪感と絶望と・・・言葉にできない程の喜びが無かったか。
自分なしではどうにもできない状況、それがとても心地いいと・・・。
「とんでもない人間にばかり好かれて、大変ね工藤君」
諦めにも似た自分の声は、まるで自嘲を含めるかのように自分にも降りかかった。