スノーボール
2013/10/03 22:19




「幸せか?」

その言葉に、笑って頷く。
「幸せです」
きっと彼は内心傷付いたりしたのだろうけれど。
自分の心臓を抉る様に切りつけトラウマを残したんだから

(この位、許されるでしょう?)

元光は少しだけ視線を下げて、「良かった」なんて言うから、
僕は少しだけ目を見開いて。

「君も、幸せに」

そう言って光の元へ走る、走る、走る。
後ろを振り向かない様に、終焉を迎えたソレに何も残さない様に。
「かがみくん、」
走りながら、心細くなってその名前を口にする。
火神君は、光は、きっとこれからも僕を大事にしてくれる。
そうして今、過去に少しだけ感傷的になった僕の涙を拭って、甘いキスを

「黒子」

走るのに草臥れて、スピードが遅くなった瞬間に後ろから声を掛けられる。
これから向かう場所にいるはずの、温かくて力強い声。

「火神君?」

勢いよく振り返れば、少し驚いた様な顔で、彼が笑う。
「どうしたんだよそんな急いで、腹でも減ったか?」
ちょっとチキンライスにグリンピース忘れて買いに来たんだ。
そう言って持っていた白いビニールをガサガサ言わせて持ち上げる。
あまりにもいいタイミングで、都合よく現れるものだから

(まだ、心の準備が、出来てない)

酷い顔だろう。
少しだけ泣きながら走ったから、汗と涙で濡れてる筈だ。
僕の様子に気づいて、怪訝そうに近寄ってくる火神君に、青峰君の事で縋るなんて、

別れが少しだけ寂しくて、今までの想いに終わりを告げるのが哀しくて

今は君だけが大好きだけれど、それでも心を整理して、それから君を好きだと。
寂しさからではなくて、君を好きだからこそ気持ちを切り替えてからが良かったのに。

「火神君、大好きです」

そう言って笑った僕に、君は少しだけ驚いた様にして歩みを止める。
けれどすぐに満面の笑みで、「俺も好きだよ、黒子」なんて言うから。
疲れた体を後少しだけ酷使して、

「わっ、黒子!」
「火神君のくせに、火神君のくせにっ!」

そう言いながら抱きついて、慌てた様な火神君はちゃんと僕を受け止めてくれて。
肩口に額を擦りつける、途端に香ってくるのは安心できる、お日様の匂い。
火神君の匂い。

「黒子・・・」

ポンポンと背中を叩かれて、愚図る子供をあやす様なソレに少しだけムッとして
「僕、チキンライスのグリンピースは好きじゃありません」
嘯いて見上げれば、印象的な眉を外人的にピクリと動かして
「生意気」
コツンと軽く拳が降ってきた。


(本当に、幸せです)








↓さわやかに読み切りたい方は此処まで。ヤンデレてもよい方のみどうぞ↓














隣で眠る、儚い少年の寝顔をじっと見つめる。
青峰から聞いた。今日テツと話をする、と言った彼はまだ少しだけ期待が残ってる。
もしかしたら黒子が自分の元に帰ってきてくれるかもしれない期待だ。
だから、黒子に今日の夜うちに晩飯を誘った。

黒子が俺を好いてくれているのは、少し前から気付いてた。
焦がれる様に見ていた青峰を気にしなくなって、熱の籠った瞳で俺を見る水色。
それに気付いた時、どれだけ俺が歓喜したかしれない。
その眼差しに込められた熱に、向けられる感情に酔った。

だから、待ち合わせ場所の公園からウチに来る道の途中のスーパーで待った。
俺の家に着く頃には心の整理を付けているだろう彼を、より俺に依存させるために。
縋ればいい、依存してくれれば尚いい。
そうして走る彼を見掛けた時、焦ってスーパーの袋を持って外に出た。
まぁ、黒子の体力を考えればここまで走ってこれた事が奇跡だった。
外に出た瞬間、途端に失速した黒子を呼んだ。
涙と汗に濡れた顔ですぐに心情を察したが、わざと見当外れの事を言って笑いかける。
顔を拭う事も出来ない位驚いている黒子を見られたのは良かった。
これからも知らない顔をドンドン見ていきたい。

傷付いた彼をどうやって堕とそうか、考えていると

『火神君、大好きです』

あぁ、俺が色々と考えなくとも、彼はもう心を決めていたのだ。
泣き顔を晒した事で、より脆くなった口がこの場で俺に恋を告げる。
俺は笑って、自分の手に転がってきたそれを優しく包み込むようにして
「俺も好きだよ、黒子」
今は彼に合わせて、恋を告げる。
俺の気持ちはもっともっとどす黒く、渦巻く様な愛であったけれど。

(いつか、俺と同じ位の気持ちを返してくれたらいいけど)

推し量れない位深いソレに、きっとそんな時は来ないだろうなと思いつつ



幸せそうに笑うお前の全てを手に入れる。



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