宝石とさよなら | ナノ


▼ 77



コントロールの上手くなった我愛羅君はどんどん術を覚えて行った。
ぽぽぽんと軽快な音をたて崩れた砂は足元に、残った我愛羅君が私のお腹の上で顔を摺り寄せナマエと呼ぶ。
跨いで重力にならって下へと落ちる足を揺らし、ぎゅうぎゅうと抱きつくその顔には自信が滲み出ていた。

「キンコウさんの教えてくれたアカデミーの術、全部覚えたんだね」
「うん」
「我愛羅君ならできると信じてたよ、私の自慢の息子だよ」
「……っ、うん!」

その異質なものを飼う身体のおかげでアカデミーに通う事を許されず、一人押し込まれるように過ごしていた彼が、自分の力で乗り越えたのだ。
大きな怪我こそしなかったが、最初のうちは暴発して私に牙を向けて来ていた砂も完全に抑えられるほどに成長した。
息子という言葉に目を見開き息をのんだ我愛羅君が、嬉しそうに目じりを下げて腕の力を強めた。


「実はキンコウさんに出された課題が終わったらあげようと思ってたものがあるの」
我愛羅君を椅子からおろして立ち上がる。こっちと屋敷の中に入った私に慌ててサンダルの砂を落とし追いかけてきた。
私へと当てられた部屋だが着替える時くらいしか使わない部屋は物を隠すのにちょうど良かった。
日の当たる窓際に置いた小さな鉢植えを我愛羅君の手に乗せる。

「おめでとう我愛羅君」
「サボテン……!」
「そうそう、秘宝丸っていうのよその子」
良く育ったら我愛羅君の髪のように真っ赤な花を咲かせるわ。
キンコウさんに相談して一緒に選んでもらったのよと瞬きをやめた我愛羅君に笑いかける。
耳まで赤く染め上げた我愛羅君がだんだんとその顔を俯かせていく。少し心配になったが「嬉しい」と返してもらえたのでほっと胸をなでおろした。
サボテンが好きかまでは知らなかっただけで花屋の前を通るたびにちらりと覗きこんでいたのは知ってる。
動物は守鶴の気を察して逃げてしまうが植物は逃げて行かないもんね、そりゃ興味だって沸く。
今までは花を育てるどころじゃなかったかもしれないが、もう大丈夫。目いっぱい趣味を楽しむんだぞ息子よ。
下唇を少しだけ食み、震える腕を止めた我愛羅君が一つスゥ…と深く息を吸った。



小さく吐息を吐くように、か細く何かを呟いた我愛羅君の声を聞き取れなかったので、もう一度言って欲しいとお願いしたが「何でもない」と真っ赤になった顔をあげて返された。
パタパタと隣の自室に駆け込んだ我愛羅君に鼻の頭を掻き、外に出しっぱなしにしていた本とピッチャーを片づけに行くことにした。


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