宝石とさよなら | ナノ


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「そうだ!」
それだけを口にしごそごそと懐をあさりだしたチクマちゃんに私は慌てて着物の合わせを抑える。
ほぼ身内だし一人は人形だからと言っても流石に無防備すぎやしないかと眉を顰めるが、彼女は指の先に目当てのものが触れたらしくひっつかむとそれを私の前へと晒す。
腕一本を突っ込み乱れた胸元を直しもしない彼女に見せつけられた革の手帳に思わず私は首を傾げた。

「何それ」
「マタンのプレゼント、ナマエにって」
「はぁ……」
彼女の勢いにあっけにとられる私の腕をとり手のひらを上に向けさせるとその上にそれをはたくように落とした。
まあ中身見てみてと実に楽しそうな彼女に乗せられおずおずとそれを開いた。
パラパラと紙をめくればはじめの頁に簡素な人体の図が書いてありそばに番号もつけられていた。
頁を進めるにつれ分量や細胞のつけ方などの詳細も載せられており、ようやくそれが自分の身体を使った治療法なのだと気づく。

「これは?」
割柏新しめの外装だがそれなりに開かれた痕跡は残っていた。
それなのにどこの頁も白、白、白。白紙とは一体どういう腹積もりなのだろうか。
困惑しながらチクマちゃんにそう問えば、彼女はああごめんごめんと頭を掻いた。
ナマエの身体に関するものだったし勝手に鍵掛けといたからいつもの印で解除してよと彼女に促され彼女お得意の機密文書用術の解除印を結んだ。
あぶり出しの様にじわりじわりと紙に溶け出した墨が文字を形成し、その小さな文字を追う。

「ナマエが負傷したときに自分でそれなりに手当て出来るようにってさ」
後ろの方の医療忍術は流石にサソリ辺りにやってもらわないとダメだってマタンが言ってたけどね。
せっかく粘土細工の様にこねれば簡単に自動複製できる代物なんだから使わなくちゃもったいないよ。
生き延びて帰ってきなさいって言う禁術を黙ってかけた彼なりの贖罪みたいなもんだ。マタンもナマエが来てからずいぶんと丸くなったみたいだ。
「許すか許さないかはさておいて、受け取っといて損はないよ」
あんな奴だけどプロだからねと苦笑するチクマちゃんからありがたく頂戴しナマエは戦争がはじまる前に読み込んでおかなければとポーチの中へしまい、決めた。


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