宝石とさよなら | ナノ


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「点呼は終わったぞバキ。全員ちゃんとそろってる」
シュデンの言葉に頷いたバキが号令をかけた。シュデンがその声と同時に十数メートルはある砂岩の砦を駆け下り先頭にいたテッカンの横につく。
近年この世界でここまでの凱旋はなかっただろう。
凱旋と例えるにはいささか足が速いが、障害物の少ないこの国で高所から雲隠れへ向かう人の群れは圧巻であった。
走る彼らの背に家族が恋人が友人が声援をかける。再び自分たちの元へ帰ってくるよう祈りを込めて。
先鋒を行くシュデンとテッカンに好戦的な砂の忍は自らの力を揮えると嬉々していた。
若い忍は笑い、何度も岩との小競り合いに駆り出されている上忍たちは未知の力に笑っていた。

「鼓舞しなくてもこんなに勇ましいなんて本当うちの忍は頼れるやつらだよ」
「マタン、それは皮肉か?」
「いーえ本音本音。まあ尾獣の本当の力を知ってるのなんて羅砂の近くにいた人間だから、いざその圧倒的な力を視界に入れた時に動けなくならなければいいとは思ってるよ」
我愛羅に尾獣を移す作業も身内でやってたし本来の力を知らないから怖さがわからないのは仕方ないんだけどねぇとマタンがバキの隣で眉間をもみほぐしながら乾いた笑いを零した。

そういえば、こんなに好戦的なうちの里で畏怖されていたのは守鶴よりは我愛羅だったとマタンは医療班の列が来るまで凱旋を眺めながら思い出していた。
その存在が大きいからこそその脅威を視覚ですらとらえることが出来た尾獣の守鶴。
暴れるたび羅砂が地に沈めていたし、自分たちが保護される側だった里の人間には“最後は風影がどうにかしてくれる”という一種の安心感が心の根底にあったのだ。
しかし守鶴の時とは違い、一見無害そうな我愛羅の突発的な癇癪とともに繰り出される攻撃は、相手が大抵一般人や子供なのと羅砂が放置していたことで負の部分が膨れ上がっていってしまったのだ。
……ああ、あの時にこうしていればなんて、羅砂は……オレの友は黄泉の国で後悔でもしているのだろうか?
「マタン、医療班すぐそこだぞ、見送るのか?」
「行くよ、ナマエちゃんが頑張ってるのに俺たち忍が里でお茶飲んでられるわけないでしょ。元生徒たちも全員出発してるし」
「普段のお前からは絶対に出ない言葉だな、良くも悪くも影響を与えてくるなあの異世界人は」
「そうだな、それじゃ最後尾よろしく」
目いっぱいの医療器具を封印した巻物ばかりを詰め込んだ荷物を背負い、バキの隣で黄昏ていたマタンもシュデンの様にほぼ垂直の砦を滑るように降りて行った。



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