宝石とさよなら | ナノ


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我愛羅君の目の前で粗相をしないように努めるシュデンちゃんにしては珍しい。
彼女を目で追っていた私は再度声をかけようと手を伸ばすがすんでのところでばちんとはたき落とされた。
赤くなる手の甲を擦れば我愛羅君の目がつり上がっていたので口を開いた瞬間にそれを制した。
大したことないからと軽く笑い彼女の背を見送る。見事なまでに嫌われてしまっているなぁ。
きっかけが欲しいがそもそも話を取り合ってくれない、私が勝手な行動をしたことも彼女の怒りの要因に含まれるのだろうがそろそろ修復させてほしいというか謝らせてほしいというか。
まあ、それすらもまだまだ時間がかかりそうだと嘆息を一つ零し自分達もと彼女の出て行ったドアを開いた。
財布を手にし追う我愛羅君にもう持ってきたから休憩室に行こうと促せば首をかしげながらも私の隣へと並んだ。


「ごちそう様、朝ごはん美味しかったです。んで我愛羅君には作ってなかったなって思って」
いや作ったかもしれないけど記憶が定かじゃなくって……、ま……まあとにかくただの気まぐれだから!
そう言ってナマエが手に持っていた紙袋からタッパーをいくつか取り出した。
半透明で青く色づいた蓋から透けるのは色合いを気にして配置された所謂……巷で言うおかず……という……、……!?

「あの、ナマエ……まさか!」
「箱がなかったからタッパーだし悪いとは思ったんだけど」
「ナマエ、ナマエ!嬉しい!」
これは、あの…手作り弁当だろう?と確認してくる程度に我愛羅君ははしゃいでくれているが、手作りの前に小さく伝説のとか入らなかっただろうか。……どうした我愛羅君。
いや、まあうんいいんだ。こういう機会はなかなかなかっただろうし幼少期に出来なかった分色々な経験をさせてあげたいと思ってるし。
思わず椅子の上に正座して表情筋が硬かったのは嘘だったのかと突っ込みそうなほどに、子供の頃と同じ屈託のない…満面の笑みを向けてまで喜んでくれるのは作り手冥利に尽きるし……。
根付いた毒見行為が来るかと一口目を放らずに待っていたが、「これはオレの分だ、今日は良いんだ」とまさかの例外宣言に固まる私の目の前に、我愛羅君の背後に現れた影が一つ、我愛羅君の方の卵焼きに手を伸ばした。

「あ、おかえり」
なさい、と最後まで音にする前にピシリと背後に立つ姉の口に運ばれていく卵焼きを見て固まった我愛羅君が震えだした。
「ただいまナマエと我愛羅、それとごちそう様。今度私にもナマエの味をおしえてく……」
「テマリ……、貴方って人はいつもいつも……」
「が、我愛羅君あーん!」
わなわなとふるえていた彼の口に迷わず今日一番いい出来だった卵焼きを突っ込み物理的に口を塞いでやる。
何で今日こんなに感情表現が豊かなんだ我愛羅君なんて疑問を持ちつつ様子を見るが、ネグレクトされてようが良いとこのお坊ちゃんなことには変わりなく、大人しく咀嚼を始めた。
私が食べたくて作ったのに……うっ……、なんて内心嘆けば我愛羅君の様子に気付いたテマリちゃんも慌ててポーチの中からお土産を出し誤魔化した。


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