宝石とさよなら | ナノ


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本当に少しだけ外の空気を吸い頭を冷やす予定だったのに足はチヨに追い掛け回された里のはずれの演習場まで来ていた。
自分達がここを使いだす前と同じく久しく人を迎え入れていなかった演習場の砂を舞い上げる。

来ることが出来たのだから戻ることだってできると、漠然といつかは帰れると考えていたのだ。
方法は解らなくとも希望があるだけまだ良かった。それをまさかこんなところで、完全に否定されるとは思わなかった。
結局は私は彼らにとって“里の所有物”なのだと理解してしまった。
また部長に心配をかけているとか私が抜けた穴を誰が埋めているのだろうかとか流石にクビにされたかなとか。
たんまり積まれているであろう仕事を徹夜で処理したり将来を見据えたお付き合いをして籍を入れたり……。
そうやって一般人へと戻り生きて行くのだと、信じていたのだ。
魂だけがこちらに来ていたから拾ったのだと説明を受け、きっとキンコウさんの身体を置いて本来の身体に移れるのだろうと。
……なんて短絡的な考えだったのだろうと、何一つ、誰一人として疑うことなくのほほんと過ごしていた自分が憎い。

「どうだ、この里の雁字搦めな体制は」
中々に抜け出したくなる傀儡政治っぷりだろうと自分を正当化したうえで煽る男に流石のナマエも擁護できなかった。
それなりに自由が認められていたと思っていたのに最終的には…いや、そもそも最初っからナマエに選択肢なんてなかった。
どれだけ味方だと訴えていても、牙を抜かれ爪を折られ、首輪に手綱を手にされている時点で端っから自由なんてなかったのだ。

「まるで死人のようだな、どうせなら本当に死ぬか?毒殺、絞殺、そのくらいなら仕込みなんてなくてもやってやるぜ?」
その入れ物と引き換えだがなと上から下までをねぶる視線を制止させるためゆっくりとサソリへと顔を向けたナマエはまた取引かと肩を落とす。
ここにきて何白何千と聞いてきた気がする二文字に、それがなければ他人を信用する事なんぞできるわけがなかったのだと、やはり無償でむしゃぶりつくしていた彼らの脛の味を知る。
「人形になりたかったサソリの気持ち、今ならわかる気がする」
「先にその口を縫い合わせた方が良さそうだな」
こんな奴に理解されるのも理解された気になられているのも癪に障ると傀儡素体特有の打ち鳴らすような笑いをやめ馬鹿にするスタンスは崩さぬまま舌打ちで不機嫌を示した。
それに今度は逆にナマエが笑うと「心配して出てきてくれたようだけどもういいわ、諦める」とため息を一つ吐きくるりと踵を返す。
今までの言動を見ていてのまさかの切り替えに仏頂面な仮面の下で純粋な驚きを隠したが、その瞳の中にまだどす黒いモノが燻ぶっているのを見てまだ取引のチャンスはありそうだと人傀儡の素材を手に入れるための撒き餌を得ておこうと決めたのだった。


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