宝石とさよなら | ナノ


▼ 367



チャクラ糸を伸ばし、傀儡の頭を首の断面へと運んでくる。
先にくっつけていた両腕でカチリと心地よい音がするまではめ込んだあと、それを鏡で確認しずれを直した。
封印班はきちんと頼まれた通り一室のみにサソリを縛り付けていたのだが、多重に封印しなかったためにその日のうちにサソリに封印を解かれていただけだった。
中身がどんな奴なのかわからないから素人に任せていたのか知らないが、この里もずいぶんと甘くなったもんだと鼻で笑う。デイダラが簡単に入り込めているし、そのスパイの情報によれば里内は平定していたようだから皆が皆平和ボケしていたのだろう。
すぐに逃亡できそうななまっちょろい見張りしか里の外周に配置してないのは解っていたが、あえて逃げ出さずにいたのは地を這う蠍のように獲物が射程内に入ってくるのを待ち構えていたからであった。
「あの体はなかなかに興味深いからな」
解体(バラ)して、敗北した自分の最初の人傀儡にしようと考えつつ、垂れた前髪を指で軽くずらし地階の工房へと戻れば何ともまあ修羅場と化した光景に出くわしたのだった。

「はーん?今度の風影サマはなかなかの癇癪持ちじゃねーか」
嫌いじゃねえぜ?そういう煩ぇ奴。今すぐここで解体したくなる。
ニヤニヤとナマエたちの傍まで歩いてきた見覚えのある犯罪者の格好をした男が軽く指を動かせば、そのまま四肢を縛られたかのようにピクリとも動けなくなってしまった我愛羅が睨み付ける。
極限まで細く視覚でとらえにくくしたチャクラ糸だったが流石にそこは同業者であるカンクロウが瞬時に気付き「降ろしてやってくれ」とサソリへ懇願する。
相手が敵ではあるがそのあり方や作品達には敬意を払っているらしい後輩の演者に「仕込みはまだ何一つねえよ」と不満そうに口を尖らせたが我愛羅の事は降ろさずに挑発的な茶色い瞳で若い風影を嘲笑った。
「テメーがその調子ならいずれコイツはオレのモンだな」
能力に対して容姿がついてってないのがそれなりに不満だが、まあ見た目はいじくればいいだろうしと表面に筋肉が主張していないいない生傷だらけのナマエの顎を捉え吟味するように返していく。
案の定挑発に乗った我愛羅が吠えるが動けない彼の声をBGMにしサソリに制裁を加えたのは、空気と化した壁際のお偉方ではなくサソリの手で吟味されていた当の本人だった。

「チヨ様に頼まれてるからね。徹底的にその根性鍛えなおしてやるわ」
先ほどまで自分では手に負えないなどと考えていたナマエがはめ込んだばかりの頭部を殴る。
サクラほどではないにしろ恨み節の乗った拳はそれなりに傀儡へのダメ―ジを負わせ、削り整えたばかりの硬質素材が微妙にずれたのを見て自分の攻撃に反撃をすることなくずっと受け身だった監視役が一筋縄でいきそうにないことを知り、蠍は顔を歪めて舌打ちを返した。
「ナマエや、姉ちゃんはそんなこと……」
「コイツ死んだらチヨ様のところに行きますよね?その時に何もできなかったんだなって思われるの嫌ですから」
言ってない、と続けようとしたエビゾウの言葉を遮り、不快感も怒りも通り越して笑顔を貼り付けているナマエは「届けるならば完璧な状態で納品しないと」と社畜根性丸出しの宣言を口にしたのであった。

「そういう事で悪いんだけどみなさんこの人形を里に置いておく許可をください」
吹っ切れたのか怒りに任せているだけなのかわからないがポンポン話を進め出したナマエに呆気にとられるメンツの中いち早く反応した彼女の上司の立場であるチクマが手にしていた書類から一枚を抜き首の状態を診るサソリの前に翳した。
「赤砂のサソリ、貴方はそこにサインをお願いしますね」
監督者の欄に自分より若いナマエの名前が既に記入されているその紙に顔を歪めたものの、書いてある条件の中に自身の里での保護と給料だの材料取り寄せなどの有利な条件、そして祖母が研究していたという術の引き継ぎ等も記載されており興味が湧く。
なにより暁を抜けた今、自分の身体も傀儡もままならない状態で里の外に放り出されてしまうよりは傘下に下るのは賢明な判断だと言えよう。
消えなかった命を無駄にする趣味もないし自死なんてプライドが許さない。どこぞの名もない賞金首に刈り取られるよりは互いに利用し合う方がましだった。
不満はあるが生きるためにはそれなりに好条件だと渡されたペンで名前を書いて返せば眼鏡の奥できらりと光った女の鋭い眼光に放してしまった契約書を取り戻そうと掻いたが空を掴み下へと下がってしまった。

憧れの傀儡師を前に、ナマエの今後を案じつつも最初にそれを受け入れたのはカンクロウであった。
「どうせ、もう決定事項なんだろ?」
「うん、毎度ながら事後報告悪いけど里の発展の為に拾った命は有効活用しないと」

昔は自分達を守れればその他は知らないとばかりに目を瞑ってきた彼女がどんどん砂へ、砂の考えへと組み込まれて変化して行くのを見、しかたないじゃんとため息をついてナマエ側へと回った。
同じく中間管理職のような立ち位置についているカンクロウにはナマエの気持ちが良くわかるのだ。
挟まれた彼女の味方をしてくれる奴も少ないだろうし自分がその役目を担ってやろうとナマエの肩を叩く。
なにより末弟が溺愛している為に普段はその陰で掠れるが、カンクロウもまたナマエの事を好いているのだ。
憧れ、保護欲、その他諸々……。好きな女の自由にさせてやろうと陥落したカンクロウがナマエの後に言葉を紡いで背を押してやれば、「全く……」と呆れつつテマリが溜めこむなと相談はする事を条件に飲み込んだ。
残るは末弟のみだが相変わらずいやだいやだと駄々を捏ねるがごとく首を振る風影にどうしたものかと頭を悩ます上の兄弟達へ普段はなかなかに大人しく穏やかな弟の罵倒が飛ばされた。

「何故ナマエのみに押し付けるんだ!」
たった一言、一番歳若い我愛羅がそう零した瞬間、時の流れが止まったのだった。
反論できる人間はこの中にはいなかった。
ただただ自分はナマエが過ごしやすくなるように努力してきたのだと、自らの過去の…草の根活動を零していった。


_



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -