宝石とさよなら | ナノ


▼ 306



今日はこんなところか。そう零したチヨは自身の傀儡をしまった。一週間ほどで一応すべての術の発動自体は物にしたナマエには舌を巻く。
思っていた以上の成長速度だったが術を出しっぱなしでチャクラ切れを起こしたり、発動したときに数秒隙が開いたりする。
発動速度もまだまだキンコウには追いつかず、かゆい所には手が届かないが。
自分と違ってスタミナ切れを起こし肩で息をするナマエに「マタンの小僧が定期健診だと呼んでいたぞ」と伝えて釣堀にいる弟の元へと帰っていった。

どうやら本日は皆任務で出払っているらしく、普段は盛況なチヨ様のアドバイスを貰いに来る下忍はいなかった。
「……きょ、今日は閉店と伝えてください」
もしかしたら任務が終わった後に来るかもしれないと考え、現パートナーのマジュちゃんに一言伝える様にお願いすると、おっけーと軽い返事が返ってくる。
後ろでシュデンちゃんの怒声が聞こえたから風影室にいるのは解ったが一体何をしでかしたんだと電源を切られた通信機を見つめ病院へと向かった。


「失礼します、ナマエです」
「ああ来た来た。久しぶりだねナマエちゃん」
「久しぶりって、ひと月もたってないじゃないですか……」
マタンの茶化しには慣れた。何言ってんだこいつとナマエが思わず零して目を細めれば、「君と初めて話をしたときから変わってないねぇ」とマタンは無精ひげを撫で擦る。
エビゾウ様は修行に乗ってくれたのかと問えばチヨバア様の方が指導と鞭撻をしてくれているらしい。
ちょっと前まで風の国内を出張していたので顛末を知らなかったがどうやら無事修行が出来ているらしい。
キンコウ繋がりだなと幾重にも幸運と伝手をもたらす身体に視線を落とした。

そんなマタンの余裕の感じられる笑みに黙ったままだとからかわれると判断したナマエは健康診断ですよねと先手を取りにかかる。
「そう、健康診断という名の採集」
君にも説明したけどそういう取引してるから。医者が患者の体について報告するのは当然のことだからねとマタンは戸棚から迷わずにナマエのカルテと空の瓶を取り出した。
五代目様には口止めされてるけどあの子が考えている以上に君は大人だ。報告したところで何ら問題はない。
「それに研究結果を君に伝えておけば君はもっとこちらに協力してくれるだろう?」
「我愛羅君達の…いや、砂の為になりますからね。さっさと終わらせましょうよ」
「解った解った、それじゃあ一応いつもと同じように麻酔するからね。部分麻酔だけど」

損得勘定するナマエは仕事の時と同じくあまり抑揚のない話し方でマタンに向け口を動かしたが、遅く帰ると我愛羅が拗ねると漏れた言葉にマタンは苦笑を漏らした。
いつだってナマエは我愛羅の事を気にしているのだ。


「ナマエちゃんって付き合ってる男とかいたの?」
いきなりの質問に動く首だけを腹を開くマタンへと向ければ。翡翠のネックレスが手術台の上に転がり出た。
「……今はいませんけど、今日のセクハラですか?」
「そ。おっさんのお節介。ナマエちゃんも良い年じゃない、作らないの?おっさんに憧れちゃってたりとかしてる?」
「目の前にいるマのつくおじさんはリスペクトしてないですねぇ!…まあ、その内なるようになるんじゃないですか?今は……、忙しいし作る気はしないです」
少し口籠った彼女の反応を見るに、あちらの世界に戻ってから身を固めようと考えているのだと察したマタンは見合いするなら紹介できなくもないから言ってくれと笑った。
我愛羅を応援しているけどたまには意地悪してもいいだろうと。忙殺されそうな日々のお茶目な仕返しだよと声を抑えたままにやりと笑んだマタンにナマエは怪訝そうに眉を寄せた。

いつか元の世界に戻れないのだと気づいたとき、彼女はきっと水流に身を任せたように諦めるだろう。
数年以内には我愛羅にもお見合いの話が来るだろうし、我愛羅は君に迫るだろうけどその時に君はどうするのかな。
マタンは近い未来確実に爆発するであろうこの話をチクマと肴にでもしようと覚え書きし胸に秘め、ソテーをナイフで切る様にいとも簡単に切り口の綺麗なカケラをビンへと落とし、縫合を始めた。


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