宝石とさよなら | ナノ


▼ 304



「しゅ、守鶴……ッ」
ナマエは目を見開いた。これが羅砂さんが息子に入れたバケモノだというのか。これが、我愛羅君の中に……。
口に鉄の味があふれ出しようやく腹にその鋭利な爪が一本刺さり、穴をあけていることに気が付いた。さらにその下を指の隙間から覗き見れば怯えを通り越し痙攣しているのが目に入ってきた。

脳からの伝達が上手くいってないのかと考えたが妙に冴え渡っている頭でそれは考えにくい、だとするとこれはキンコウさんが怯えているのだろうか。
痛みは鈍く、じわじわと箇所が熱くなっていき地面に縫い付けられた身体はそのまま守鶴の腕と共に鉄格子内部へと引きずられていく。
先ほどまでは通り抜けることなんてできなかったのにづぷんと言う音を立てて体内を通り抜ける鉄の棒に疑問を沸かせる。

うたた寝をして落ちたのを覚えているしここは夢の中なはず……。
まさか干渉してきたのかと眉間を寄せた私に腹にさした爪を引き体を二つに裂いた。夢であろうと痛みが無かろうと、この感覚はやはり慣れない。
流石に皮一枚程度しか繋がってない状態だから現実だったらとっくにお陀仏だろうがごぽりと修復し出した肉が元の身体へと戻っていくのを見て、ああやはり夢なのだと確信を持った。


「何だ、ざまぁねえなァナマエ!」
あれだけオレの事をバケモノだとか言っときながら自分もバケモノじゃねえかと守鶴は一通り嘲笑った後に舌打ちした。
死なないならいくら傷つけても楽しくない。そうぼやいた守鶴に裂かれた筋がくっつきだしたナマエが仰向けのまま視線をやる。

「守、鶴は……何が、したくて私を呼ん…だの」
「ア?んなの決まってるだろーが」
目の前でテメェの一番大切にしてるものが切り裂かれれば発狂するだろ?オレは外に出られるし暴れられるし鬱憤晴らしには最適なワケだ。
テメェが疲弊して弱ってきたからそろそろ介入出来るだろうと踏んでたしチャンスを逃すワケねえだろと馬鹿にする守鶴。

それに呼んだのは自分だが応答したのはテメぇだ、こっちのせいにしてんじゃねえといまだ殺したいと殺気を向けて来るためキンコウさんが怖がっているのか足腰が立たないが、ナマエは動く首を満月の方へと向けた。

「話はしてくれるんだ……」
「……、まともに対話できる人間は久々だからな。腐っても一尾の守鶴だ」
その辺の獣と一緒にするんじゃねえと静かに反論した大狸にナマエは出会ってから初めて笑みを零した。

「今までバケモノって呼んでて悪かったわ。私てっきり言葉が通じないんだと思ってた」
「人柱力以外とは普通は話せないからな、テメェがバケモノだから反応できたんだろ」
「なるほどなるほど!バケモノ同志仲良くしようじゃない、守鶴」
「却下。黙らねえと食い殺して植物状態にするぞ」

守鶴、性格というか趣味が人殺しだとか瑕瑾にもほどがあるけど敵意を向けなければ結構フレンドリーじゃない。
人間は嫌いだとか喚く狸をいなし、今度お酒でも持ってきてあげるから人ならざる者同士仲良くお話でもしようじゃないとからからと声を出し笑えば苦虫をかみつぶしたような顔をされた。

世界が違えば常識も違うのだと今まで畏れしか抱かれなかった守鶴は思った以上に厄介なモン連れてきちまったとぼやき、茶釜へと変化した。
これ以上ペースに乗せられてたまるかと意思表示する為なのか、無機物になってしまった案外我愛羅君と似ている寂しがり屋を霞む目で微笑みつつ眺めていれば、眠りから覚めていたのか気付いた時には毎日目にする赤毛が3寸も離れてない所で揺れた。


「……我愛羅君おはよう。ごめんね、寝ちゃったみた……い…で……」
ばっちり視線の合ったナマエは、頬を赤らめて瞬時に離れた我愛羅が何をしようとしていたのかを不問にすることにした。


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