宝石とさよなら | ナノ


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マタンさんとおしゃべりを始めて二時間を過ぎたころようやく手術室に人が入ってきた。
青年というよりはまだ少年よりの片腕が包帯でぐるぐる巻きにされた男の子とその後ろに貴金属の装飾をたっぷり身に着けた恰幅のいい男と厳つい男たちがぞろぞろとついてくる。
これが廃墟に不法侵入して肝試しをしていた子供か……、ナマエが少年を眺めていると高圧的な男はいきなり「うちのかわいい息子の役に立てることを光栄に思えよ忍の小娘」と息巻いてきた。
は?何コイツ。これが大人なの?大名と初対面のナマエは今後里の為になるかもしれないし気持ち良く挨拶しておこうと打算的な考えをし、笑顔を貼り付けておいた顔を思わず歪めた。
その変化にいち早く気づいたマタンがナマエの前に出て深々と頭を下げる。
「ようこそいらっしゃいました、この度息子さんの手術を担当させていただくマタンです」と挨拶を始めたマタンさんが目線をこちらに向けた。
目で注意された気がして少しだけ視線をずらし、しぶしぶではあるもののナマエも頭を下げる。
決して口は開かないがそれでも頭を下げたことにいくらか満足したらしい大名にマタンさんが今から大事な息子さんの傷口を一旦開くことになるので外に出ていてほしいと頼み、いくらか文句をつけつつもその指示に従った大名たちをナマエは引き攣った顔で見送った。

マタンさんと出ていくときに牛車で急いできただなんてほざいた大名にぶわっと不満をあふれさせたナマエは子供が残っているのを忘れ舌打ちし盛大にため息をついた。
ここまで酷いとは思わなかった、取引先でもああいうのはいたけれどこれは度が過ぎてないだろうか。
脳細胞が死滅していってる気がして必死に心を鎮めようと二つ並べられた手術台の上に座り足を組んだ。
緊張していたのか、はたまた親の前ではイイコなだけだったのか。こちらを見ていきなりふんぞり返りだした少年は口を開いた。
「オレ、おばさんの臓器つけなくちゃいけないの?」
「あ?殴るわよ」
目に見えて口が悪くなっているが来た瞬間からの態度で良心が反応することはなかった。
子供にだけ素の顔を見せているのは褒められたものではないが、大人の方は今の私の力では何も報復できそうにない。
やはり頭も体も強くならなくてはと再度決心したナマエをしばらく眺めていたが、「殴ってもいいよ?大名の息子だけど」と鼻で笑い噛み付いてきた少年に青筋を浮かべて「君、名前は?」と聞いた。
「何でおばさんに教えなくちゃいけないの?」
「あらあら、マタン先生があえてドナーとクライエントの顔合わせをさせたのってそういう意味があったんじゃないのかしらね」
先に名乗ってあげる。私はナマエ、クソガキには体罰も辞さないから。これから一週間くらい泊まっていくんでしょう?楽しみにしてるからね。
怒涛のごとく押し寄せた言葉の波に大名のご子息様は大層驚かれたようで、マタンさんが戻ってくるまで豆鉄砲を食らった鳩の真似をしていた。



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