シルク·ドゥ·デエス | ナノ


▼ 煩悩の犬



それはカカシの中ではとうに予想されていた未来だった。
表に出てきたハクベイに対して男たちが食いつかないわけがないのだ。
エリートで強くて金持ち、さらにオプションとばかりにフードの下に隠れた白髪に透けるシルクのような肌を持つ愛くるしい美貌。
ついでのおまけだと言いたくなるほどふたを開けてみれば人懐こい笑みをこちらに向けて来るほどの取っ付きやすさ。
なのにどこか飽きの来ないミステリアスさまで備えたお買い得POPが貼られていてもおかしくないよくばりバリューセット状態のハクベイである。そう、予測できたのに止められなかったのだ。
案の定時間が経てば経つ程に流れるCMを目にする人間は増えていき、カカシは胃に穴が開きそうだった。

「で、何の話なんだカカシ」
そういうのは一人でやってくれねえかなとジッポで咥え煙草に火を付けながらアスマにカカシはずいと身を乗り出した。
片目しか見えないがその下まぶたに隈をこさえてるところからもう片方も同じ状態だろうと容易に予測できる。
「今、ハクベイさんデートしてんのよ」
「デートじゃなくて撮影だろうが、しかしあいつも出世したな」
これを機に暗部は引退するのかなあいつは…と肺から呼出煙を吐きだせば、それを手刀で二つに割りさらに詰め寄る。
「それに場所が温泉街とかもう絶対ハクベイさん穢れちゃう!」
「……オレはお前の脳みそが穢れてる気がするな」
両目を手甲を嵌めた手で覆い、わんわん泣きべそをかくフリをしてアスマの気を引いて真剣に相談に乗ってもらおうとするカカシ。
ナルトあたりなら何らかの反応を示してくれただろうが何年も隣で同期として走ってきたアスマにそんな嘘泣きが効く事なんてなく、無反応すぎる目の前の友人にカカシも醒めてすぐにべそをかくのを中止した。
「早く告っちまえばいいだろうが」
今度はどストレートに、とカカシがプロポーズを仕掛けた居酒屋の背もたれに身体を埋め込み、半目で返したアスマにカカシは馬鹿言うんじゃないよと噛み付く。
「そんな恥ずかしいこと出来るわけないでしょうよ!」
「お前出合った日にここで自分がしでかした事思い出してから言えよ?」
脇腹の膝はかなり響いたんだからなと睨み付けるもカカシには効果がなく、めそめそといつもは重力に反発する銀をしな垂れさせた。

「最近のハクベイさんは何がしたいのかわからないヨ…」
「いつだって米しか見てないだろうが」
めんどくせえから早く告っちまえよ、ガイみたいに……。
アスマがもっとはっきりどストレートになれよと言う例えで出した同期の友人の名に予想以上に反応を示したカカシはアスマの胸ぐらをつかみ一気に引き寄せた。
「ガガガガイがハクベイさんにななななんだって?」
「落ち着け、物の例えだから」
あの近くに居たら体感温度が8度くらい上がりそうなヤツがンな事する分けねえだろと揺れる視界のまま諭せばそ、それもそうだったとガイに失礼な同意をし腕を止めた。
早とちりで人を殺そうとすんじゃねえと崩れた襟元を正すアスマと謝りかけたカカシの視界に話の中心人物であるハクベイの姿が飛び込んできた。
不味いのはハクベイの隣に何故かガイの姿が確認されてしまったことである。

飛び出していったカカシを追いかけようと席を立ったアスマの肩を店のおばちゃんが掴んだ。
「お会計は?」
にっこりと、しかし青筋を浮かべたおばちゃんにへらりと反射的な愛想笑いを返したアスマ。
カカシの分まで精算する羽目になっている友人の事なんて露知らず、ガイへと攻撃を仕掛けて行ったカカシだったがそこはお互い上忍と暗部。並んで歩いていた二人はひらりと躱すと敵意を向ける人物を確認するため目で追う。
あれ、カカシさんじゃない?と見慣れた銀髪を確認したハクベイが手をあげのんきに声をかけたがカカシはそれに顔を向けることなく手をあげるだけで返すと再びガイに向かって飛びかかっていった。
「ハクベイさんから離れろこの猛獣!」
「ど、どうしたカカシよ!」
いつも気だるげな友人の豹変ぶりに仰天するガイ。
体術を鍛え上げた身体がどうにか条件反射で避けていたが、踵に小石の感触を受け、よろけた身体を二つに切るかのような回し蹴りに思わず抱えていた物を盾にした。
ざざら……と潮騒のような音を奏で、地面へと落ちて行った白い内容物を駆けつけたアスマが目にした瞬間、白いフードパーカーの女から黒く濁った殺気があふれ出したのを確かに目視した。

勢いよくブリッジをしたため地面に脳天をぶつけたガイがもんどりうつ前で、とりあえず一発はしてやったとカカシはひとまず怒りが収まったらしい。
先ほどのアスマの例えを真に受けてしまったための行動に、ハクベイの前でみっともないところを見せたと恥じ取り繕おうと頭を掻いたところではっと殺気のする方へと顔を向け、数秒前まで赤かった顔から血がさっと引いていった。
「あ、あのこれは……」
違うんです、事故なんで……。そこまで行ったカカシの足に下段蹴りをかまして一瞬で地面へと叩き伏せるとぺっと地面に唾を吐き捨て俯せになったカカシへと冷たい視線を投げ捨てた。

「最低」
三分の一ほど雪崩れ出た米粒を巻物から出した袋に入れ替え拾うと視線を交わすことなく一人その場から去っていった。
ようやく痛みが引きだしたのか頭を抱え込みながらも状態を起こしたガイが状況を理解できて居ないらしくハクベイとカカシを交互に見る。
ハクベイに手を伸ばしかけた状態で固まったカカシにアスマはかける言葉が見つからなかった為、そんなガイの元へと介抱しに向かった。


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