▼ 心臓だけを連れていく、
仮初の命、仮初の肉体だって構わなかった。
もう一度あの人と一緒に生きられるなら、今度こそは過ちを正して、それで、最期まで添い遂げられるならば。
「サガ、お願い……」
「……離せ、〇〇」
いつか見た、あの誇り高い黄金ではない。冷たく禍々しい色をした冥衣で覆われた腕にしがみつきながら、必死に首を振った。
この腕を離したくない、だって離してしまえばサガは。
「時間がないんだ、〇〇」
上から降り注ぐサガの声は固い。
きっともう何もかもを自分で決めてしまっているんだろう。あの時のように、私にはなんの相談も無しに。
そう思うと遣る瀬無くて、自分ではもうどうしようもないほどに感情が膨れ上がっていた。
「いやだよ、サガ! 折角戻ってきたんじゃない、なのにどうしてまた同じことになるの!」
「……同じじゃない。私は、同じことをする為に戻ってきたのではない」
そう語るサガの声は柔らかかった。
まるで睦言でも囁いてるみたいで、じりじりと緊迫している聖域には不似合いな声音だ。
……ああ、やっぱりダメなんだ。
私の声は、サガには届かない。
俯いた私の頭に大きくて堅いなにかがそっと当たる。撫でるように往復していくサガの手に、私の瞳は促されるようにぼたぼたと涙を零した。
「いやだよぅ、また一人ぼっちになる……!」
サガは、やっぱりなにも言わなかった。
なにも言わずに、ほとんど力の籠められていなかった私の腕から自分の腕を引き抜いて、踵を返していく。
「サガ、いかないで……、どうしていつも一人なの、なんで一緒に連れていってくれないの……!」
美しく長い髪が、闇の中で靡く。その背が消えていくのを、私はただ泣きながら見つめることしか出来なかった。