短編(使用不可) | ナノ


▼ 好きって言って!


「シュウーー!」


いつものように、この森を住み処にしているらしい少年の名を呼ぶとすぐにがさがさと木葉が揺れた。ひょい、と葉っぱの間から顔を出したシュウは呆れ顔だ。


「〇〇、また来たの?」
「うん! 来ちゃいましたー」


えへへ、と笑うとシュウは溜息を吐き出す。もうお決まりのやり取りだ。シュウが木葉から身体ごと抜け出してこちらに近づいてくるのをにこにこ眺めていると、軽く額を小突かれる。「痛い!」と顔をしかめると「そんなに強くやってないでしょ」とさらりと流された。


「僕だって、毎日きみに付き合っていられるほどヒマじゃないんだけど」
「でも私が呼んだら必ず来てくれるよね」
「……あんまり調子に乗ると、もう来ないからね」
「え、やだ!」


シュウと話しているのは楽しいし、一緒にいられるのはもっと嬉しい。シュウと会えなくなるのは絶対に嫌だ。

慌ててシュウの腕を掴むと、おかしそうに笑いながら腰に腕を回される。まるで抱き合っているような体制にドキドキ胸を鳴らしていると、私の心臓の音が聞こえたのかシュウがにやりと笑った。


「〇〇って、ほんとに僕のことが好きだよね」
「うん、大好きだよ」


素直に答えると、シュウの顔がちょっと赤くなった。聞いてきたのはシュウの方なのに、「そういうことはさらりと言わないの」と怒られる。


「だって私、本当にシュウのことが好きなんだもん」
「……わかったよ〇〇、もういいから」
「よくないよ!」


私がどれだけシュウのことが好きなのかまだ全然伝えきれてないのに。

唇を尖らせると、シュウが溜息を吐いた。赤い顔のまま仕方なさそうに優しく笑う。
ああ、私シュウのこの顔が好きなんだなあ。
ポーッと見とれていると腰に回っていない方の手で頬を撫でられた。ちゅうの合図だ。思わず顔を赤くすると、シュウがくすりと微笑む。


「〇〇、」
「ん」


少し掠れた声で名前を呼ばれると気持ち良くて安心する。瞼を閉じると、頬に宛てられたシュウの少し冷たい手と、重なった唇の感触だけを感じていられた。ああ、幸せ。
少しして離れた唇に、うっとりと溜息を吐き出すとシュウが上機嫌そうにくすくす笑う。


「〇〇はホントにキスが好きだよね。そんなに気持ちいいの?」
「うん。でもシュウも私とちゅうするの好きでしょ? いつもより優しくなるもん」


すりすりとまるで犬のようにシュウの胸元に顔を押し付けると、ぽんぽんと頭を撫でられた。優しい手つきだ。私が猫だったら喉でも鳴らすのに。


「うん、僕も好きだよ。〇〇の唇、柔らかいし」
「……シュウが好きなのは、ちゅうと私の唇だけなの?」


むぅ、とシュウを見上げるとシュウが面白そうに笑う。


「そう思うの?」
「……思いたくない」
「じゃあ違うんじゃないかな」


そっか、と頷くとシュウの胸に押し付けていた頭を離された。なあに、と上を向くとまた唇が降ってくる。今度はちゅ、と音を立てて離された唇に笑ってしまった。


「シュウはえっちだねぇ」
「男の子はみんなそうさ」


なんでもない顔でシュウはそんなことを言ったけど、残念ながら顔が赤い。くすくす笑っているとシュウが拗ねたような顔をした。


「〇〇」
「うん?」


ゆっくりと頬を撫でられて、また笑いそうになった。シュウはまだちゅうしたりないらしい。そっと目を閉じると、温くなったシュウの手を感じた。


「好きだよ」


ぱちりと目を開けると、シュウは悪戯っぽく笑ってさっと手を離した。ちゅうはしないらしい。でもなんでだろう、むずむずする。


「シュウ!」
「なに?」
「私も好き!」


シュウが笑うから、我慢仕切れなくなって唇を重ねた。どうやら、ちゅうしたりなかったのは私の方だったらしい。









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