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▼ 親切と青の相関図


 家を出た時6時を過ぎたぐらいだったから、多分いまは7時か、それより早いぐらいなのだと思う。

 適当に走りまわって、その先で見つけたコンビニに寄ってATMでお金を下ろした。
 そのままおにぎりとパン、スナック菓子を中心にしたおやつ、そして紙パックの飲み物を目についた順にカゴにいれてく。ついでに新聞も一緒にレジに置くと、眠たそうな顔をしていた店員が奇妙な物を見る目で僕を見てきた。
 多分、中学生くらいの子供が早朝に大量に買い物していくのが珍しかったのだろう。
 僕だって、コンビニに三千円も支払ったのは初めてだけど。


 ふう、と溜息を吐いて肩を震わせた。風が冷たい。というか痛い。


 ちらりと盗み見た新聞の日付的にどうやらこちらはちょうど冬を迎える季節らしい。
そんなところは一緒なんだな、と抱いた感想はそれだけだけど。

 それよりも早く帰りたい。
 寒さもあるけど、そもそも荷物が重い。ビニール袋が手に食い込んでいるし、さっさと帰りたいのだけどそうも言えない状況になっていた。


「どうしよう……迷った」


 びゅううう、と音を立てて風が通り過ぎていく。
 現在地がわからないから、地図と睨めっこしてもまるで意味がない。
 早朝の見知らぬ町。人っ子一人いない風が吹きすさぶ道路に、僕はぽつんと立ち尽くしていた。





****

 僕の隣で、高い位置に縛られたポニーテールが揺れている。
 ゆらゆら、ゆらゆら。
 空色の髪が楽しげに跳ねるたび、僕は視線で追いかけてしまう。
 それがやっぱり気になったのか、他愛がない会話を続けていた少年がついに首を傾げた。


「どうかしましたか?」
「ん? いや、綺麗な髪だなあって……」


 素直に感想を漏らすと、少年の大きな目がしばたく。
 きょとん、とした顔に思わず笑いかけると、ありがとうございます、と照れたようにはにかんだ。

 ……美形なのでとっても眼福である。

 いまはまだ幼いけど、中性的で綺麗な顔立ちをしているのであと二、三年もしたら女の子に不自由することはないだろうな。

 純粋に照れている少年の前でそんなことを考えていると、少年の歩みに合わせてガサガサと音がする。
 僕は思わず、眉を寄せた。


「やっぱり、僕が自分で持つよ」
「え? 大丈夫ですよ、これぐらい」
「でも道案内してくれてるのに、荷物まで持たせるのは気が引けるというか……」
「そんなの。困っている人がいたら助けるのは当然のことですから」


 にこにこと少年が笑う。
 その純粋な笑みがやけにキラキラしく見えて、僕はちょっぴりセンチな気分になった。自分がこれぐらいだった時、僕は確実にこんなこと言ってなかった……。

 性格もよくて顔もいい。これで運動神経が抜群だったら完全に女の子が憧れる王子様になれるだろう。

 うーん……将来が末恐ろしい。

 僕は隣の彼にわからないよう溜息を吐き出して、コンビニの袋を抱え直した。なんとなく見覚えがあるようなないような道が広がって来たので、多分もう少しで着くんだと思う。

 ポニーテールの男の子はこの辺りに住んでいるようで、途方に暮れていた僕に道案内を買ってでてくれたのだ。
 迷ったと素直に白状するのは結構勇気がいったんだけど、「この辺入り組んでますからね。引っ越してきたばかりなんですか?」と大人の対応ができるいい子でもある。
おまけにいまの僕なんて同じくらいにしか見えないだろうに、きちんと敬語まで使えて礼儀正しい。


「それにしてもさ、学校ずいぶん早いんだね」
「俺陸上部に入ってて、今日は朝練の日なんです」
「へえ、そっかぁ。……え、朝練?!」
「はい」


 あまりにさらりと言うので、つい聞き流す所だった。
 朝練をなんて軽く舐めているんだろうか!
 僕の学校の朝練は部員数の多さや監督のスパルタ指向もあるんだろうけど、本当に厳しかった。
 練習内容が、というより遅刻したときのペナルティーが恐ろしかったのである。

 僕は慌てて少年の手から荷物を引ったくると、袋の中からお菓子とパンをいくつか取り出して少年に無理矢理押し付けた。


「もうここらへんで大丈夫! これはお礼ね! 多かったら友達とでも食べて!」
「え? あ、あの?」


 戸惑う少年の肩を掴んで来た道にくるりと向き合わせると、軽く背中を押した。
 僕のせいで彼が遅刻したら本当に申し訳ない。……それに、こんないい子にそこまで迷惑をかけたら僕のなけなしのプライドもズタボロになる。それは嫌だ。


「ほら遅刻するよ! 走る走る!」
「は、はい! ありがとうございました!」


 ぴしゃりと声をだすと、少年は慌てて走り出した。
 おお、早い早い。
 どんどんと見えなくなっていく背中を見送ってから、僕は真っすぐ歩き出す。


「……ここ、どこだろう」


せめて道を聞いておけばよかった、と後悔したのはそれからすぐだった。





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