アイチは再び目を覚ました。辺りを見回せば、もとの部屋なことが分かる。 記憶は飛ぶことはなく、すぐにアイチは現状を理解した。 逃げようとして、再びアルに捕らえられてしまったのだ。アイチは恐怖のあまり手を動かそうとした、だが、動かなかった。正確には、がしゃがしゃと言った無機質な音を立てながら、微かに動いただけ。それから結び付けられる答えは、手首は、ベッドの柱か何かに手錠のようなもので固定されているのだろう。
「――――っぁ」
動けない。足だけは、どうにか動かせる。声も出る。けれど、逃げることは叶わない。 そして何もできないままにただ呆然と天井を眺めていると、扉が開いた音がした。 アイチの視界に入ったのは、アルの顔だった。
「目が覚めたか、アイチ」
そう、アルは笑った。 アイチの目に、再び涙が溜まる。そして、口を開いた。
「アルくん、これ、ほどいて」
悲痛なその声に、アルは優しげに微笑む。そして、アイチの頬を撫でた。
「駄目だ。そんなことをしてしまえば君は、また私を置いていってしまうだろう?もう、置いていかれたくないんだ。置いていかれたくない。置いていかれるなんて、嫌だ。独りぼっちは嫌だ。独りは、もう嫌なんだ…嫌なんだ…!」
答えから独り言のようにそう繰り返しながら、アルはアイチの頬を撫でる。 アイチがその呟きについて、何かを言おうと口を開いた瞬間、ぽたりと、アイチの頬を降ってきた雫が濡らした。アイチはハッと目を見開く。アルが、泣いている。 本人は気づいていないのか、その涙を拭うことをしない。
「どこかに行ってしまうのなら、もう、こうすることしか__」
アルは顔を近づけ、アイチの唇に口付ける。舌を差し入れ、ねっとりとアイチの口内を舐め回しながら、アイチのその細い身体を衣服の下からまさぐった。 アイチはもう、叫び声も、助けも、呼ぶことを諦めそうになっていた。もう、逃げられない。アイチは悲しげに、頬を涙で濡らした。 アルは唇を離す。はしたなく、アイチとアルの唇を銀の細糸が繋いでいた。そしてアルは、衣服をもう一度何の躊躇もなく破く。アイチはそのまま乱暴されるのではないかと目をギュッと瞑ったが、予想していた衝撃は来なかった。代わりに来たのは、優しい手つき。 アイチが恐る恐る目を開く。 アルはアイチの髪を撫でていた。その手は、腕は、小刻みに震えて、何かに怯えているように思えた。 アルは愛に飢えた子供のように思えてくる。アイチへの恐怖は増すと同時に、戸惑いが少しずつ生まれていった。
早く、逃げなきゃいけないのに。それなのに、逃げられない。正しくは、逃げることが『できない』。
どうしたら、いいのか。
「私の『コイビト』になってくれ、アイチ」
そう言うと、アイチの下着を下ろし始めるアルに、アイチは「嫌だ」と首を振った。
「やめてアルくん!お願い、やめ…っ!…ひ、やぁ!!」
アイチの蜜壷に指を這わせ、アルは笑う。唐突なことに、アイチは悲鳴じみた声をあげた。 レンにしか触れさせていないそこを、アルが触れている。レンさん、レンさんと心の中でアイチは彼を呼んでは涙していった。戸惑いの生理的な涙は、様々な感情のモノへと変わっていく。心の悲鳴であり、苦渋であり、どこまでも屈することを強制しようとし、仲間がいるにも関わらず『独りぼっち』と語るアルへの憐憫と、そしてレンへの罪悪感。それはあまりに大きなモノで、アイチの心を押し潰そうとしていた。 アルはアイチの瞳を覗き込むように見た瞬間、途端にその指をアイチの蜜壷へと躊躇なしに突っ込んだ。 濡れていないそこに指を入れられ、アイチは「ぁあ!!」と悲鳴をあげる。それは痛みゆえなのか、それとも快感ゆえか。 そのときアルは何かを悟ったのか、目を細めた。その瞳は、不満げに揺らいでいる。
「処女、じゃないな」 「いッ…!」 「アイチの純潔を奪ったのは、あいつか…!!」
怒りに満ちた声をあげ、アルは指を抜く。アイチは痛みに唸るが、アルはそんなのお構いなしに、自分のモノを取り出し蜜壷に押し当てる。アイチの表情は、一気に蒼白となった。
「お、お願いアルくん。やめて…!やめて…!!」 「あんなやつのモノがアイチの身体を穢した。私が、塗りつぶしてやる」 「い…ッ!いやぁぁああああぁあああああああ!!!」
それからアイチは、身体を蹂躙された。レンだけを受け入れていたその場所に、何度もアルが入ってきた。 …少しでも身じろぎすれば、自分のそこから、彼の放ったモノが出てくる。それが不快で、悲しくて、悔しくて、もうレンに顔向けできなくて。アイチはとめどなく溢れる涙を拭うことができなかった。 何度も何度も、アイチの中で彼は果てた。だがしかし、彼は飽きることなくアイチを蹂躙した。きっと、怒りに任せていたのだろう。…この吐き出された量からして、もう妊娠は免れない。レンはそんなことしなかった。『まだおあずけですね』そう苦笑して、レンはアイチの中で出すことをしなかったのだ。だから、ある意味初めてはアルが奪ったものだった。 茫然としたアイチの視線は、宙を彷徨っている。そばにはアルが寄り添っていた。大切にするように、決して離さないと言いたげに、アイチを抱き竦めている。アイチは抵抗することもなく、ただアルに身を任せたままだった。 もう、逃げることはできない。絶対に、もう。レンに顔合わせもできない。逃げる理由が、消えてしまった。
「ずっと一緒にいてくれ、アイチ」
アルは切なげに呟く。アイチは返事をしなかった。しかしその沈黙は、アルにとっては「yes」の返事に等しかった。そうではなくとも、逃がすことなどしないのだが。 アイチの蒼い髪を撫で、そして口付ける。
「愛してる」
その言葉はどこまでも歪んだもので、しかしどこまでも一途な純粋な想いが込められている。 アイチの宙を彷徨っていた視線は、その言葉と同時に床へと向けられた。
(ごめんなさい、レンさん)
もう、あなたのところへ帰ることができなくなってしまいました。 ごめんなさい、ごめんなさい。 みんな、ごめんなさい。 ごめんなさい。
愛おしい恋人と仲間達への謝罪を繰り返していると、アイチの頬に新たな涙が伝う。 それは罪悪から来ているのか、それとも生理的なのか。アイチにはもう、そんな区別がつくはずもなく。 アイチは諦めたように、逃げるように、そっと目を伏せた。 もう二度と出られないこの鳥籠に、身を任せながら_____
_少女は今日も、少年のそばにいる。 _少年が望むがままに、堕ちながら。
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