※(ヤンデレ属性)
三和は溜め息を吐く。
その様子を見たミサキや櫂は『どうかしたのか』と尋ねる。
「らしくないな、三和。何か悩み事があるのか?」 「アイチとの仲、あんまり進んでないの?」 「いや、そういうのじゃなくてな…」
三和はポツポツと話した。 その内容は……
「ストーカー被害に遭っている?」 「そっ。アイチじゃなくて、俺自身がさ。」
三和によれば、ここ2か月前からストーカー被害に遭い始めたという。 最初は見知らぬメールの脅迫文。
『彼女と別れろ』や『別れなかったら殺す』という脅迫から、『愛してる』という一文のみで埋め尽くされた文面だったりだった。 気味が悪くなったため着信拒否をしていたが、それに代わっての方法か、手紙や宅配便紛いのものが送り付けられていた。 宅配物の中身は綿が飛び出たボロボロのぬいぐるみ、花束、服など気色悪いものばかりだ。
「それは完璧にストーカーね。」 「警察には知らせたのか?」 「いいや、どうせ高校生の俺の身や証言なんざ、真剣に取り組んではくれねえ。それにストーカーって普通男が女にするもんだろ?信用されるかどうかも問題だな。」 「だけど最悪、アイチにも被害が加えられるんじゃ?」 「平気平気。俺にだって考えぐらいあるからさ。」
ミサキや櫂は『やり過ぎるな』と戒めて、三和を見送った。
「………………………。」
その彼の後ろ姿を、誰かが見ているのには気づくことはなかった。
三和は自身の家であるマンションに着いた。 彼の両親は明後日まで留守である。 現在中高生は皆三連休を貰っており、今夜はアイチが三和の家に泊まりに来るらしい。 すると三和が不意に後ろを振り返る。 そこには…後江高校の制服を着た女子高生がいた。
「何やってんだ、お前?」 「ぐ、偶然通りかかっただ「嘘だな。人間は嘘を吐くとき、無意識に斜め上を見るらしいぜ?」
見え透いた嘘を突かれ、少女はぐうの音が出なくなった。
「…お前、何が目的なんだ?」 「あ、あなたがいけないのよ!私の方が、頭だっていいし、容姿も要領がいい!なのに、あんな女のどこがいいのよ!?あなたには私だけ!私だけなんだから!だから、別れてよ!あの子と別れてよ!別れないなら、あの子殺すわよ!」
ベタな脅しと理由に、三和は内心『頭の悪い屑女』と蔑んでいる。
するといい案を思いついたのか、三和はなんと少女を家に招き入れた。 理由は『冷静に話し合おう』ということだった。
******
「腹でも減ってないか?美味い料理御馳走してやるから。」 「た、食べたいです!あなたの作ってくれた料理を、食べたいです!」
見るからに明るい表情になった少女に、三和は作っておいていたビーフシチューを温めて、彼女によそった。
好きな人の料理を目にして、食らい付かない人間など、絶滅動物並みの珍しさだ。 ペロリと平らげた少女に三和は笑いながらこう言った。
『人の肉の味はどうだった?』と。
「え、今…何て?」 「あれ、聞こえなかったか?人の肉の味はどうだった?って聞いたんだよ。」 「えっ…だ、だって、さっき『ビーフシチュー』って、言ったんじゃ?」 「人の肉の味は美味しかったか?…お前が喰ったのはな…お前が憎くて殺してやりたいと思っていた、アイチの肉だぜ?」
その言葉を聞いた瞬間、少女は酷い吐き気に催され、椅子から崩れ落ち、目を見開き、自分が食べたものを吐き出そうとした。
「美味しかったか?恋敵を殺す手間も省けたし、何よりさっき殺したばっかりだから、新鮮そのものだぜ?」 「く、狂ってる。狂ってるわよ、あなた!人を殺して食べるなんて!」 「狂ってる?…俺のことストーカーしてたテメーが言えた義理なのかよ?とりあえず…残ってるの全部食うか?恋敵の肉を一片も残さずに食えばいいんじゃねえの?」
少女は恐怖のあまり我を忘れて三和の家を飛び出した。
その目には涙で溢れていた。 無我夢中で走り去っていった少女は、アイチとクラスメイトである森川と井崎の横を通り過ぎる。 しかし彼女は二人には目もくれずに走っていたので、二人しか通り過ぎたことを知らない。
「あれ、あれって後江高校の制服じゃねえか?」 「ホントだな。っていうか、泣いてなかったか?なんかあったのか?」 「知らねえよ。それよりアイチ迎えに行こうぜー?アイチを一人で来させたことが櫂や三和や姉ちゃんにバレたら、ファイトもリアルでもフルボッコにされるからよー。」 「そうだな、早く行こうぜ、森川。」
******
「三和君、こんばんは。」 「おーっす、アイチ。ちゃんとあの二人に送ってもらったか?」 「あ、うん。それより、ご両親とかは…」 「平気平気、親は両方共明後日までいねーから。」 「そ、そうなんだ……」
アイチは申し訳なさそうに三和の家に上がった。 そう、三和は最初から『人の肉』など使ってなかったのだ。 先程の行動は、すべて芝居。 彼の人を騙す程の『演技』に、少女は騙されたのだ。 彼女がこんな目に遭ったのは自業自得と他人は思うだろう。 しかし彼が彼女を騙した代償は大きく、下手をしたら彼女は人間不信になり、自殺を図ってしまうだろう。
だがそんなことは三和にとって『関係のない』話。 好きな人が生きて自分のそばにいれば何でもいいのだ。 どこか純粋で、どこか歪んでいて、どこか子供のような感情を、彼は持っている。
それをアイチは知らないのだ。
「アイチ、今日お前のために美味いもの作っといたんだよ。食べるか?」 「三和君が作ったの?うん、食べてみたいな!」
三和は満面の笑みで料理をよそう準備をする。 アイチはそんな誰よりも明るく優しい彼が犯した『罪』に気付くことなく、彼が作ってくれた料理を心待ちにするのであった。
***
※この作品は、カニバリズム(食人)を推奨するものなどではありません。(by黒木様)
(『ワンダーランド』黒木様より)
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