※(ヤンデレ属性)(死ネタ)
城の地下に続く階段を下りる、ドラゴンエンパイアの皇帝・トシキ。
重たい扉を開けると、そこには蒸せ返るような甘い匂いが漂う。 そこには毒草の花が枯れずに存在していて、その奥には一席の安楽椅子があった。 その椅子には青い髪を持った少女が座っていて、静かに眠っている。
「…アイチ。」
彼がそう呼ぶが、彼女は返事をしない。 彼女は既に死んでいるのだ。 彼女を敵だと勘違いした、彼の部下に殺されたのだ。 彼女は最後にこう言った。
『トシキ君…普通に生きるのって、難しいんだね。』
「……………………。」
彼女はダークゾーンの住人だった。 ダークゾーンには異能力者が山程いる。 アイチは毒を摂らなければ生きていられない体に生まれていた。 そして彼女はダークゾーン以外の世界を知るために旅に出ていて、偶然にもトシキと出会い、逢瀬を繰り返していた。
だが部下に見つかった時、部下は何を思ったのか彼女の胸を剣で一突きした。 アイチはそのまま息絶え、彼は怒りのあまり部下を切り殺した。 部下が息絶えようと、彼は怒りに任せ部下に剣を突き刺す。 怒りが収まった頃には夕暮れになっており、彼はアイチを背負い城に戻った。 アイチを地下の部屋に隠し、以来彼女の体が腐らないように特定の毒草を毎日運んで来ている。 彼女の死に顔は今にも起きそうな程に安らかであり、どこか安心しているように思えた。 しかし彼はそんなことは望んでいなかった。 少しの時間でよかった。 彼女は自分を皇帝としてではなく、一人の人間として接してくれた。 なのに彼女は死んでしまった。 自分を慕うあまり、彼女を敵だと勘違いしてしまった部下により、彼女は死んでしまった。
「……アイチ。」
そっと彼女の顔に両手を添える。 目覚めてくれればいいのに、目覚めることなど決してない。 だが彼はそれでも彼女を愛しているのだ。 彼はただ一人の人間として見てほしかった。 家族もいない自分にとって、彼女だけが心を許せたのだ。
「…いつか、お前を蘇らせることが出来るのなら、その時は……お前と、一緒に…一緒に旅をしよう。」
王位なんていらない。 目の前の少女さえいればいい。 それだけで幸せなのだ。
だから彼は…毎晩彼女のそばで眠るのだ。
「…おやすみ、アイチ。」
トシキはそっと彼女の膝で眠った。
彼には毒草の毒は通じない。 故にこうして彼女と共に夜を添い遂げられる。 例え温かみのない亡骸だとしても、彼は息絶えるまでずっと彼女のそばで眠る。 ずっと…彼は彼女だけを思い続ける。 彼は今日も明日も、明後日も……何年経っても彼女への愛情は変わらない。 彼にとって、彼女の存在だけが……彼が生きていける物だからだ。
*** ※櫂君は決してネクロフィリア(死体愛好者)とかじゃないです(by黒木様)
(『ワンダーランド』黒木様より)
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