※闇アイチ独白
※PSYクオリアに呑まれる瞬間





何かと、いつも『ボク』は頑張っている。櫂くんに認められようと、必死になってる。
どうしてそんなに必死なの?
僕にはわからないの。どうしてそこまで必死なのか。
おんなじ僕であるはずなのに、『ボク』の感情が流れ込んでくるのに、わからない。
どうして、どうして。いじめられっ子だった『ボク』。ずっとずっとそれを見てきた僕。
本当は、僕が『ボク』の支えであったはずなのに。いつの間にかその役を、櫂に取られてしまっている。いつの間にか、Q4に取られている。
『ボク』が喜んでいるのは知っているのに。もっともっと仲良くしたい。初めて、こんなに笑い合える仲間が出来たの。嬉しい、楽しい。とっても。
明白なその感情は、僕の中で巡って回って。僕は悲しく辛くなる。苦しくなる。
僕は消えてしまうのか。ずっと君の闇を支えてきてあげたのに?君は、僕を見捨てて消えてしまうの?
おんなじ『ボク』なのに。
櫂トシキに出会う前からずっとそばにいた存在なのに。
あんな人達に会うまでは、僕との距離はまだ近かったのに。
今じゃ、遠いよ。
ねぇ、遠いの。
とっても、とっても。
光があるところには闇があることを、君は誰よりも知っていた。そのはずじゃないか。
なのに、どうして、僕を消そうとするの?どうしてその光で、僕を真っ白にしようとするの?そんなことしようとしても、変わらないのに。逆に、僕が抱えてきたこの痛みを、君が背負うだけなのに。
おねがい、この真っ黒な痛みだけは、背負わせたくないの。
真っ白な真っ白なその光。おねがい、そんなに照りつけないで。
僕が消えちゃう。消えちゃうの。
『ボク』のそばに、いられなくなる。
『ボク』のそばにいるために、この痛みを、嫌な感情を背負ってきたのに。
二人で一つの心であったはずなのに。
片割れが消えたら、
成り立たないよ。

『力を』

え?誰かの声が、聞こえる。知らない声。僕にしか聞こえない、声。

『力が欲しいか?』
力。それは、一体何?

『お前は何を望む』

僕の問いなんてお構いなしに、その声は響く。
僕が望むのは、僕が望むのは。

『ボク』と一緒にいること。

『本当に、それだけか?』

そうだよ。それだけ。

『嘘つき』

突然その声が、自分の声に変わった。
瞬きすると、漆黒だった風景に、一人の幼い男の子が立っていた。
その男の子を、僕はよく知っている。

『嘘だよね』

男の子は、僕に囁きかける。
その身体はどこまでも傷だらけで、今の僕そっくりだった。
正真正銘、僕が今そこにいる。まるで鏡のように、そこにいる。
昔の弱い、僕が。

『僕にはわかる。僕は僕だもん。「ボク」みたいに何も知らないんじゃないよ』

やめて。ただの幻想でしょう?どうして、僕のところに来るの?僕は僕。君は確かに僕だけど、水面にでも写った僕の分身でしょう?なら、僕がどうして言わないかもわかるでしょう?

『わかるから言ってるの。君になら、今このチャンスがどんなに幸運か、わかるはずだよ』

僕は意味深に笑う。
素直になってと、囁かれる。
本当に、素直になってもいいの?

『いいんだよ。だって、ずっと背負ってきたんだ。だから、ほんの少しのわがままくらい、きっと赦してくれる。

さぁ、手を伸ばして』

幼い僕が、無邪気に手を伸ばす。僕もその手に手を伸ばす。
ごめん『ボク』。あのね、僕ね、本当はね、








本当は
誰よりも強くなって
君を独り占めしたかったの
だって、僕は『ボク』でもあるのに
僕を拒絶するだなんて
不公平でしょう
だから、ね?
僕は、君を独り占めにするために
僕は君を奪って
侵食して、取り込んで
仲間も壊して
孤独にしてあげる
そうしたら、
櫂くんに認めてもらう必要なんてなくなるよ
もう、葛藤も何もしなくていい
そんな楽な世界に連れて行ってあげる
僕?
僕はね、
僕は仲間を壊したあとで、
櫂くんを独り占めしてあげる
だって、ずっとできなかったことだよ
君のずっと望んでいたことを、叶えてあげる
それで君を絶望させてあげる
君ではなく、僕に笑顔を向ける櫂くんを見たら
きっと、きっと
君は櫂くんのことを嫌いになるよね
それで、僕にしか縋らなくなってくれるよね?
ねぇ、ねぇ、ねえ!
そうだよね
僕ね、ずっと誰かを壊したかったの
いじめっ子になりたかったの
君は大事だから虐めてあげる
櫂くんのことは僕に任せて
だから、安心してね
君だけおいていくほど、僕は酷くないよ
『全て』を壊したそのあとで、
僕は君のもとへと帰るから
だからその時まで
待っていて
もしも僕が帰れなくなったら
そのときはごめんね
でも大丈夫
君が僕のことを迎えてくれれば
僕は帰れるから
大丈夫
こんな力に、僕は負けないから




幼い僕が妖しい虹色に変わって、僕を包む。
力のその奔流に、僕は目を閉じる。
人格が入れ替わるその瞬間
『ボク』が悲しそうに僕を見ていた。


(そう、その顔が見たかったの)

(君のこと、大好きだよ)

(だって僕は『ボク』だもの)

(だから、ねぇ、)

(僕のことも、)










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