※オバロ櫂。セイバアイチ。
※櫂←アイチ





惑星クレイには、それぞれの国家に必ず、守護竜が存在する。それは、それぞれの国家を守る為に存在する、古より生きし竜達。
守護竜達は決して、守護竜同士で結ばれてはならない。それぞれの竜は常に、守るべき国家に縛られていなければならないのだ。そうしないと、存在意義を喪うから。喪うことは、死を意味する。結ばれてしまえば、守護竜は守護竜として機能できなくなってしまう。
だから、とある守護竜の恋は赦されないことだった。





惑星クレイのとある国家。ドラゴニックエンパイア帝国では、今や激しい戦乱が続いていた。
元より戦乱を生業とし、戦乱より得た利益で帝国は賄われている為にいた仕方ないのかもしれない。
青空の広がる空間でその様子を見下ろす少年が、そこにはいた。
まるで碧海の如く美しい蒼髪が、空間より吹く微風に揺れる。それと同時に、少年の見下ろす先で赤が揺らめきが、とある地を大きく侵食していくのが見えた。
少年はただそれを、じっと見詰め続けることしかできない。次々と生きる世界から離脱していく魂を、引き留める術は少年にはないのだから。戦乱を止める権利など、この少年には存在しない。
だがしかし、少年の唯一の権利と言えば、消えゆく生けとし生きるものを次の輪廻へと導くこと。つまり、新たな生へ導く、誕生の先導者だった。しかしその性を果たすためには、一度生まれ出でた生命に一度生を放棄してもらわなければならない。
勿論、自分で生み出した生命が消えゆくのを見ているのは我が子を殺しているようなものだから、正直忍びない。だが、古より見守っている立場としては、その全てを焼き尽くす炎は正しい、そして愛おしいとも思ってしまう。たとえ、愛するこの国が、この世界の住民たちが否定しようとも。
少年___アイチは小さく手を何もない空へと手を伸ばす。指先に集う、昇り来た生の道より外れ出た魂《ヒカリ》たちに、アイチはそっとその魂を胸の前に寄せ集め、そして吐息を掛ける。
するとその魂たちは、アイチの元を離れ、弾かれたようにあちこちに散っていく。
きっと、また母となる者たちのところへと向かうのだろう。そして、新たな生命として誕生する。

「君の炎は、こんな綺麗な命を生み出すためにあるんだよ」

ねぇ、櫂くん。

帝国の守護竜であるドラゴニックオーバーロードこと櫂は、自分の宿命にいつも悲しそうな顔をする。
破壊しか生まないといつも彼は言っているけれど、そんなことはない。今もこうして、新たな生命を生み出す糧となっている。
それだけじゃない。いつだってその炎は、アイチの心を癒し、彼の存在を示してきた。それは、アイチにとっては奇跡の炎と例えても、決して過言ではなかったのだ。
もしも。もしも叶うのならば。
彼だけのモノになってしまえたらいいのに。
だけれど、愛する国を、我が子たちを、見捨ててはおけない。
そして、守護竜は恋してはならない。そういう決まりで、理。
だから、胸に秘めたこの想いをただ、燻らせたままに心の深い水の中に沈めていく。
そんなことを思っていたそのとき、アイチの顔があからさまに歪んだ。

「ヴォイド…」

戦場へ唐突に現れた闇。揺らめくその闇は、悪意がひしひしと伝わってきた。
全てを呑み込み、この地を闇で埋めつくさんとする、全てのクランの負の感情が集まってできたその生命体は、時には人型をとり、時には霧となり、様々な形状をとり、そして様々なクランを愚弄し呑み込もうとしている。
闘っていた戦士たちは一時休戦を取り、ヴォイドと対峙する。そしてそこには、

「櫂くん…!」

前線で闘っていたオーバーロードは、すぐ様闇へと向かっていく。
その瞬間だった。

「…ぁ!」

闇が、ヴォイドが。
オーバーロードを、呑み込んだ。

「…ぇ」

何が起こって、何がどうなった。
分からない。分からない。
呑み込まれる寸前、櫂がこちらを、見た。

「櫂くん…!」

ここは竜達だけの精神世界のようなもの。だからこそ、櫂はアイチの存在に気が付いたのかも知れない。
アイチの必死な目と、櫂の目が合う。だがそれも、刹那に消える。
もしも、あそこに行けたなら。すぐに行けたなら。
アイチの中で、混乱が脳内を駆け巡る。
そして次の瞬間。
自分の身体が、黒に染まった。
後ろを振り向けば、黒い闇が絡みついてきていた。
精神にまで、蝕んできたのか。守護竜でさえ抑えきれない負の感情ゆえに、アイチには抵抗の術がない。
黒に侵食されていく自分の姿に怯えながら、アイチは口を開いた。

「櫂、く…」

せめて、想いだけでも。
伝えたかった。

青い竜は、闇に呑まれる。
想いを闇に、葬られ。







なんか、とりあえずドラゴンとしての名前は昔の偉人さんが付けたので、本当は真名があるとかっていう設定。
なんだろう。自分でも分からない。…うん。唐突に思いついただけ。











第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -