「塚内さん、トリック・オア・トリート!」
「うるさい」
「お菓子くれないとイタズラしますよ!」
「もうホント静かにしてくれないか…」
目の前で喚いている部下のミョウジに溜め息を吐けど、コイツは全く気にせずに先程から同じ台詞をずっと言っている。なんなんだと思いつつカレンダーを見れば十月三十一日、ハロウィンってやつかと。
「ねえ、このままだとイタズラしますよ?!」
「やれるもんならやってみろよ」
面倒になって適当に言うと、何故かミョウジは顔を真っ赤にして狼狽え始めた。
「え…そ、そんな…いいんですか…?」
「…何するつもりなんだ」
「な、何って…そんな、言わせないで下さいよ…!」
「…」
両手で頬を押さえながら一人で騒ぎ出したので、もう無視をしようとデスクに広げている書類に目を通し始める。ちなみに今は昼休憩中なのだが、オフィスチェアーに腰掛ける俺の真横にコイツが立っているせいでゆっくり休めそうになかったのだ。仕事をしている方が何倍もマシである。
「えっと…じゃあ…い、いきますね?」
「…勝手にしろ」
と言いつつ、一体何をするのか少しばかり構えた。まさか殴り掛かってくるか…?いや、さすがに上司である俺にそんなことはしないか、しかしミョウジは本当に時々よく分からない行動するので、内心ビクついていた。
「し…失礼します…!!」
そう言ったミョウジは右手の人差し指で、突然、俺の頬をつついた。そう、つついたのだ。
「つ、塚内さんの…ほっぺ…ツンってしちゃった!」
「…」
「玉川さーん!私ついに塚内さんに触ったよー!!」
バタバタと走り去っていく小さな背中を呆然と見つめながら、俺は自分の顔を触った。え、え?イタズラって、え?
「な、なんなんだ…」
まるで壊れ物を扱うような手つきで、そっと触れられた頬がやけに熱い。
「塚内警部のどこを触ったんだ?」
「ほっぺ!!マジやばい柔らかかった!」
「そうか、なら次は耳をツンツンしてみればいい」
「うん!もう一回いってくる!」
バカでかい声で会話する二人の部下の会話に我に返り、すぐさまデスクの引き出しを開ける。確かあったはずだ…必死でガサガサと漁る俺が目当ての物を見つけたのと、騒がしい部下が再度やって来たのは同時だった。
「塚内さん!トリック・オア・トリート、パート2!」
「…ほらよ」
たった今見つけた物を投げると、「わっ」と言いながらも見事にキャッチしたミョウジは、手のひらに収まる物を見て声を上げる。
「つ、塚内さん…これ…」
「…そういうことだ、もう上司を揶揄うのはやめろ」
お菓子をくれなきゃイタズラする、なら菓子をやればいいんだろう。俺が放り投げたのは喉飴だ。多分半年以上、引き出しで眠っていた物だが菓子には変わりない。
「…」
「…なんだよ」
一粒の個包装を見つめたミョウジは、しばらく黙り込んだかと思うと、突然泣き出した。
「う、うわあああ〜!塚内さんの飴ちゃん貰っちゃったー!」
「お、おい」
「マジ家宝〜〜〜!!!玉川さーーん!!!」
「…」
フロア中でどっと笑いが起こる。遠くで猫頭は「警部からの初プレゼントだな」なんて言っているし、近くに座る部下共は「塚内さんツンデレってやつですか?」だの「本当あんた達、見てて面白いな〜」だのとほざいており。
「…お前ら!いい加減にしろ!!」
俺の怒声が響き渡るが誰一人として怯んでくれず、今度は俺が泣きたくなった。どいつもこいつも俺を揶揄いやがって…ハロウィンなんて大嫌いだ畜生。
20201031 ハロウィン
プラス再録。