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「突然で悪いんだけど。俺、高宮さんの事が好きで・・・俺と付き合ってくれないかな?」
「え?・・・」


朝練前の私たち以外まだ誰も来ていない体育館。その入り口の横で、唐突に言われた告白に言葉が詰まった。「おはようございます」と普通にした挨拶の返答が告白だったのだから仕方がないだろう。照れてる様子も見せずに淡々紡ぎ出された言葉はもしかして罰ゲーム?と疑ってしまう程。

だって、私がこの梟谷バレー部に入部してからまだ三日間しか経っていない。季節は既に夏が終わろうとしているけど、一年の二学期という中途半端な時期に転校してきた私は入部もまた中途半端な時になってしまったのだ。
だけど既に打ち解けているのは、このチームの人柄が主将の木兎さんを初めとして温かいから。そして何よりも夏休みの間に彼らと会っているからだろう。別の高校のマネージャーとして、だけど。

入学と同時に入った烏野高校の男子バレー部のマネージャー。その仕事に慣れたと同時に親の転勤で去らなくてはいけなくなってしまったが、転校先に選んだのは梟谷学園。何の縁か合同合宿を行うとの事だったので、引っ越し作業に追われながらも夏休みの合宿に参加させてもらったのだ。

その時に事情を話して梟谷のチームのマネージャーに混ぜてもらえたのが大きかったのか、入部してから馴染むのは早かった。今は烏野よりも圧倒的に多い部員の顔と名前を一致させるのに必死で、誰かを好きとかそういう気持ちになる暇もないというのが本音。


「赤葦先輩、冗談は・・・」
「夏休みに会った時から、ずっと気になってた」


だからまさか告白されるなんて思っても見なくて、狼狽える。
目の前の赤葦先輩は面倒見が良く、バレーの知識から木兎さんの性格の事まで色々と教えてもらっていて、マネージャーの先輩の次にお世話になっていた。
良い先輩だな、と常々思っていたけどそれ以上には考えた事はない。だけど、先輩は違ったという事だろうか。
冗談ならそれでも良かった。でも、私と視線を合わせた先輩の瞳はどう見ても揶揄ってなんていなくて真剣なのが見て取れる。いや、そもそも赤葦先輩は冗談で告白なんてしたりしないだろう。


「ごめんなさい・・・今は、そういうの考えられなくて」
「いや、俺もちょっと急ぎすぎた。ごめん。今の無かったことにしてくれていいから」
「え?」
「また、改めて言うよ」


断ったにも関わらず、フッと柔らかく微笑んだ先輩。初めて見るその表情に心臓がとくんと音を立てたが、特にその意味を考えることなく先輩の言葉にただ一つ頷いた。







「よっしゃ!葵今の見たか!?」
「はいっ!凄いですね。あれは誰も取れませんよ」


ダンッ、と力強くボールが弾む音に過去に浸っていた思考から我に返り、慌てて木兎先輩に答えてから誰にも気づかれないようにそっと視線を動かした。
木葉先輩と何かを話している赤葦先輩の真剣な表情を見るだけでどくりと脈打つ心臓に細く息を吐き出す。先輩に告白されてからもう数ヶ月が経って、冬が始まろうとしていた。

最近の悩みと言えば、胸の内に燻るこの想いだろう。
赤葦先輩に告白されてからは、練習中や試合中、休憩中の何気ない会話などでも先輩の事を目で追ってしまう自分がいた。初めはただ気になったから。告白してくれた人はどういう人なのだろうという、ちょっとした好奇心。
先輩と会話を交わす度に、この人は私の事が好きなのだという自惚れの感情に気恥ずかしくなり、まともに会話が出来ない事もしばしばあった。

でもそんなのは最初だけで、赤葦先輩を目で追っている内に自分の中に芽生えた感情に気付く。元々面倒見が良くていい先輩だと思っていたんだ。良く気が付いてくれるし、手伝ってくれる。何かを覚える毎に褒めてくれる、優しい先輩。じわじわと湧き上がってきた恋心を自覚した時には正直どうしていいか分からなかった。


「葵、ちょっといい?」
「あ、はい」
「ボール出してもらっていい?ここら辺にフワッとしたやつ」


いつしか呼ばれるようになった名前も、先輩の口から紡がれる度に心臓が煩いくらい音を立てて主張してくる。何とか顔に出さないように平静を装って接するけど、今にも先輩に伝わってしまいそうな心臓の音を鎮めようと必死なのだ。

ボール籠を手元に引き寄せてセットアップの手伝いをする間も、思考は別で動いていた。
この想いをどうすればいいのか、そればかり。恋をすると臆病になるとは良く言ったもので、自分の気持ちに気づいてからも赤葦先輩に伝える事はしなかった。
だって、先輩がまだ私の事を好きかどうかなんて分からないから。自惚れていたのだって、ほんの数週間の間だけ。改めて言う、そういった先輩の言葉を信じてただ待つことしかできない弱気な自分に溜息が出る。

赤葦先輩、先輩はまだ私の事好きでいてくれてますか?綺麗にボールを上げたその背中に問いかけてみても当たり前に返事が返ってくることは無い。
感傷的になりすぎたのか鼻の辺りがツンとして、込み上げてきた涙を誤魔化すために冷えた指先を温める仕草をとって震える息を深く吐き出した。







「あー、さみぃ!汗冷えた!スゲーさみぃ!」
「走って帰ればいいじゃねーか」
「春高控えてるんですから、風邪引くなんて馬鹿な真似しないでくださいね」
「木葉もあかーしも酷い!」


賑やかな帰り道。辺りはすっかり暗くなって、冷えた空気が肌を撫でていく。途中まで帰り道が同じなこの顔ぶれで、この道を歩くのもあと何回だろう。3年の先輩たちが引退したら、赤葦先輩と二人きりでこの道を歩くんだろうか。それを想像しただけでどうにかなってしまいそうだ。今のこの心境で、二人きりで過ごすのは心臓に悪い気がする。


「どうかした?」
「え、何もないですよ?」
「・・・そう?」


皆の一歩後ろを歩いて、賑やかな会話を聞きながら時折笑いを溢す。そんな私の横へ並んできた赤葦先輩は何かを見透かすような視線でいきなり言葉を落としてきたので、慌てながらも曖昧な笑みを浮かべて躱した。
だって、あなたの事を考えていました。なんてとてもじゃないけど言えないし、代わりの言葉も出てこなかったから。こうして誤魔化すしかないんだ。


「赤葦ー!明日鍵当番な」
「はぁ?急になんですか」
「いいだろ?」
「全然良くないです。自分が面倒くさいだけでしょ」


振り返りざまに理不尽な台詞を零した木兎先輩により、赤葦先輩の視線から逃れられてホッと息を吐く。いつまでもこんな逃げ腰でいたら、その内部活に支障をきたしてしまうかもしれない。でも、この想いに決着をつけるのは告白するか諦めるかの二択だ。後者はまず無理なので必然的に告白するしかないのだけど。それもまず、二人きりにならないとダメだしなぁ。部活では常に誰かがいるし、学年も違うとなると二人きり、というのは中々難しい。
どうしたものかと深く吐き出した息は白く変わり、そのまま暗闇へと消えていった。

一度考え始めるとずっと頭の中に蔓延るのはなぜだろう。家に帰っても、眠りにつく前も現状を打破する方法を考えてみたけれど結局纏まらずに朝を迎えてしまった。
昨日の事といい、そろそろ赤葦先輩に勘付かれてもおかしくない。いや、それならそれで都合が良いのかもしれないけど、どうせならハッキリと伝えたい。となると、行き着く先はやっぱり告白なのだ。
以前は赤葦先輩が伝えてくれた気持ち・・・今度は私が、伝えよう。ここでずっと足踏みしていたってしょうがないんだから。そう決意すると、がばりと勢いよく身体を起こした。

冬の朝特有のキンと冷えた空気を吸い込めば、思考もハッキリとしてくる。決意が崩れないうちにと準備を早めに済ませて、家を後にした。
人通りもまばらな早い時間。赤葦先輩にどう伝えればいいかを考えながら歩いていれば、あっという間に学校へ着いてしまった。

流石にまだ誰も居ないだろうな。と思いながらも体育館へと向かえば、丁度鍵を開けている赤葦先輩の姿を視界に捉えた瞬間にドクリ、と跳ねる心臓。ちょっと待って、まだ何もまとまってない。まさかこんなにも早く二人きりになれるなんて思ってもみなかったし、なんでこんなに早くに赤葦先輩が・・・?心の中に浮かんだ疑問はふと思い出した昨日の帰り道の光景で解消される。
そうか、何だかんだ言いながら律儀に鍵当番、やってあげてるんだ。一人で納得していると、視線の先にいる赤葦先輩の瞳が私の方へと向いた。


「葵?早いね」


先輩は首を傾げながらも近くに寄った私に「おはよう」と声を掛けてくれたけど、焦った私の口から出たのは「赤葦先輩」と彼の名前だけ。

まるで、あの日の再現みたいだ。
私たち以外まだ誰も来ていない体育館。あの時と同じ入口の横での挨拶。
フラッシュバックのようにあの時の情景が頭に思い浮かんだ時、今まで悩んでいたのが嘘のようにするりと言葉が零れ落ちた。


「突然ごめんなさい。私、赤葦先輩の事が好きです」
「え?」
「・・・私と、付き合ってもらえませんか?」


今まで忘れもしなかった赤葦先輩の言葉。だからか、図らずも似たようなものになってしまったけれど、これ以外の言葉が見当たらなかった。

自分の想いを全て込めて伝えた後、緊張が増してドクンドクンと煩く心臓が脈打つ。脈拍が乱れているせいか、緊張しているせいかは分からないがスゥッと指先が冷えて痺れる感覚を覚えて強く拳を握った。

ほんの少しの期待と祈る気持ち。もしかしたら断られるかもしれない恐怖から先輩の顔を見れず、足元に視線を落とす。
私に告白してくれた時の先輩も、読めない表情の裏側で同じような気持ちを抱えていたんだろうか。あの時の私は断ってしまったけど、先輩は・・・。


「葵、顔上げて?」


ポンッと頭の上に落ちてきた手と、落ち着いた優しい声に導かれて俯いたままだった顔を持ち上げれば、ふわりと笑った赤葦先輩と視線が交わる。あまり見ることが出来ない先輩の表情が視界いっぱいに映った途端、体に入っていた力がストンと抜けた気がした。

自分がどんな表情をしていたのかは分からないけど、切羽つまったような酷い顔をしていたんだろうか。赤葦先輩は私の顔を見てフッと軽い笑いを溢した後、力の抜けた腕を自分の方へと引っ張った。


「俺から改めて言うって言ってたのに、ごめんね」
「え、や、あの」
「次も断られたらなって思うと中々タイミングが掴めなくて」
「ちょ、先輩・・・っ」


今話されても、何も耳に入ってこない。だって、先輩の腕の中に閉じ込められているこの状況・・・つまりは抱き締められてるわけで。先輩が何か話す度に、触れている場所からくぐもった声が聞こえてくる。
ガチリと固まったまま身動きがとれずにいれば、ジャージ越しに先輩の温もりが伝わってきて、自分の体温がどんどん上がっていくのが分かった。


「赤葦先輩、あの、」
「俺も、葵が好きだよ」


ありがとう。そう耳元で囁かれ、抱き締める腕に力が込められる。ぎゅうっ、と圧迫された体はほんの少しの苦しさを感じたけれどちっとも嫌じゃなかった。思えば、男の人に抱き締められたのは初めてだ。赤葦先輩の身長が高い所為かはわからないけど、すっぽりと包み込まれるような感覚はドキドキするし恥ずかしい。でも、心地いい・・・かもしれない。

自分の状況がやっと飲み込めると、先輩と想いが通じ合ったことの嬉しさがじわじわと胸の奥のほうから込みあがってきて、行き場の無かった手をそっと先輩の腰の辺りへ回してみれば、ゆっくりと体が離された。

開いた隙間に冷たい風が吹き抜けていって肌寒さを感じるが、それも束の間。見上げた赤葦先輩がゆっくりと近づいてきて、目を瞑る暇もなくそっと唇が重ねられる。


「っ・・・い、今」
「今日から二人で帰ろうか」
「せ、先輩」
「木兎さんは木葉さんに任せよう」


何の予告もなくされたキスに心臓が止まりそうになって、自分の唇を手で押さえながらうろたえる私。そんな私なんてお構いなしに先輩は淡々と話しを進めていくけれど、今のキスで思考が停止してしまった私はただ今起こった事を繰り返すだけだった。


「今、き・・・キス」
「ん?もう一回?」


私の様子が面白かったのか、笑いながら揶揄うように言われた言葉に慌てて首を振ったが、先輩は余計に笑うだけ。
あぁ、もう。なんでこんなにも余裕なんだろう。最初に告白した時と今、立場は逆なのに振り回されているのは変わらない。ちょっとくらい、慌てたり赤くなったりしてくれてもいいのに。
平然とした顔を、少しでも乱してくれたら。そういう思いも少しあったのかもしれない。


「好きです。京治先輩」


呼び方を変えてもう一度気持ちを口に出せば、先輩の笑いはピタリと止んで。驚いたように私へと向けられた顔は、頬が微かに色づいていた。私の顔はそれ以上に真っ赤だったので、笑うことも揶揄うことも出来なかったけど。

ゆっくりと私に向かって伸ばされる手。今はそれすら緊張してしまうけれど、いつか自然と受け入れられるようになるんだろうか。
そっと目蓋を閉じながら、想像するだけで心が温かくなるような未来を思い描いた。




宮野れい様、初めまして!この度はリクエストありがとうございました。
烏野から梟谷へ転校してきた1年生、赤葦の告白を断るところから始まって、最終的に付き合う。という流れのリクエストでしたがいかがでしたでしょうか。

赤葦先輩という新鮮な設定が滾りすぎてもの凄く楽しく書かせて頂いたんですが、いざ書き終わってみると本当にこれは赤葦なのか・・・という不安があり頭を抱えています。敬語じゃない赤葦は大好きですけど難しいですね。でも、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
赤葦夢は取扱い少ないですが、やはり人気なのだと実感しています。私自身も好きですし色々増やしたいとは思うんですがやはり彼は書くのが難しいです・・・。
本誌での活躍も期待しつつ、これからまた少しずつ書いていきたいと思っていますので、またおヒマな時にでも遊びに来ていただけたらと思います。この度はリクエスト、本当にありがとうございました!
write by 神無


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