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人の想いが知ることの出来る機械があればいいのに。
誰もが一度はそう思ったことがあるんじゃないだろうか。人工知能とかまで作り出してるんだから、そろそろ開発してくれたっていいじゃん。そうしたらきっと、私と同じ想いを抱える人は喉から手が出る程欲しがると思う。

そんな話を友達にしたのはつい最近の事。でも、私の想像していた相槌は返ってこなくて。分からないから面白いんじゃん。振り向いてもらう努力したり、ちょっとしたカケヒキしてみたり。恋愛って片思いのそういうのが楽しくない?なんて、恋愛経験が殆どない私には理解できなかった返事に苦笑したのは記憶に新しい。

何となく相手からの好意は感じるけど、その感情がどういう類のものなのかは分からない。私と同じ気持ちだったら嬉しいけど、ただの友人としてしか思われていない可能性だってある。
目の前にある広い背中を見ながらそんな会話を思い出して、息の塊を吐き出した。


「どうした?そんな溜息ついて」
「別に?考え事してただけ」
「ふーん。なんかあるなら聞くけど?」
「え?いや、大丈夫大丈夫。ありがと!」


見つめていた背中の主が振り返っただけでも心臓がドクリと音を立てたのに、そんな言葉を掛けてもらえて一気に舞い上がってしまう。
前の席の彼。御幸一也こそが私の好きな人で、気持ちを知りたいと思ってる人。友達曰く、「御幸が自分から声を掛ける女子って葵だけだし、絶対に脈アリ!」なんて断言していたけど、絶対なんて分からない。と、どうしても消極的になってしまうんだ。

御幸は私の答えに微妙な表情を浮かべつつも前に向き直って、また私の視界には大きな背中が映る。今度は意識的に小さく溜息を落とした。



「って事があったんだよ」
「・・・なるほど。本人には言えないね」
「でしょ?ホント、人の気持ちを読み取れる機械が欲しい」
「なにそれ。そんなのより、御幸に直接言ったほうが早いと俺は思うけどね」
「えぇ!?無理だよ・・・」


昼休み。たまたま廊下ですれ違ったナベちゃんを引き止めて、先程の会話の内容を告げると苦笑が返ってくる。
ナベちゃんは去年同じクラスで良く話していたから仲がいいし、御幸と同じ野球部に所属しているので、いつからか私の相談相手になっていた。


「御幸が女子の名前を呼ぶってだけで、結構凄いことだと思うんだけどなぁ」
「そんな事・・・ないと思うけど」


これは少しだけ嘘。確かに御幸は他の女の子の事を名前で呼ばない。それが何でなのか、どういう理由なのかは分からないけど。好きな人に呼ばれる名前ってやっぱり特別で、御幸に名前を呼ばれる度に少し気恥ずかしくて擽ったくて。じわりと嬉しさがこみ上げる。


「葵?」


そう、こんな風に。やっぱり好きな人の声って何か特別に感じちゃうんだよね。と心の中で良く分からない納得をしていれば「こんなところで何してんだ?」と後ろから掛かった声に勢いよく振り向いた。


「み、ゆき・・・」


今呼ばれたのは妄想じゃなくて現実だったのかと驚いたのも束の間、さっきまでのナベちゃんとの会話を思い出して内心で冷や汗をかく。まさか会話聞かれてないよね?その私の心の声を代弁するかのごとく「御幸こそどうしたの?」と問いかけたナベちゃんに偶々通りかかっただけと答えたのを聞いてホッと息を吐いた。


「お前ら仲良かったっけ?」
「去年一緒のクラスだったから。ね、ナベちゃん」
「そうだね。今は相談役ってところかな」
「相談?」


スッと御幸の目が細められて私へと向く。ほんの少し冷たく感じる瞳の意味は直ぐに分かった。さっき御幸が心配してくれた時に大丈夫と流したにも関わらず、今こうしてナベちゃんに相談しているのが気に障ったのかもしれない。
御幸に関する話だから御幸には言えない。なんて馬鹿正直に言おうものならそれは告白するのと一緒のようなものだし、どう言えばいいんだろう。
焦って言い訳を考えるけど中々上手い言い訳も出てこなくて、流れる沈黙が更なる焦りを呼ぶ。


「大した事ないんだけどさ。ナベちゃん御幸と違って優しいし、つい色々言っちゃうんだよね」
「・・・ふーん。そうかよ」


自分の失言に気付いたのは、御幸が背中を向けてしまってから。何でもっと上手く言えなかったのかと肩を落とす私に「今のはちょっとマズかったね」というナベちゃんの言葉が重くのしかかる。
背中を向ける直前の冷たい目。あんな目を向けられた事なんて今までなかった。もしかしてかなり怒らせてしまったのではないだろうか。

御幸とナベちゃんを比べた事なんてないし、御幸だって充分優しいと思ってる。
今日だって溜息一つで気にかけてくれたのがその証拠だ。ただ口が滑ってしまっただけで本音じゃない。
遠ざかっていく背中に自分の本心をぶつけたって、後の祭り。
どうしよう・・・。教室に戻れば「さっきの酷くねえか?」っていつも通り話しかけてくれたりしないかな。

なんて、そんなに上手くいく筈も無く、授業の時間に合わせて教室に戻ってみてもいつも通りとは程遠い御幸の態度。話しかけてみても素っ気無いし、休み時間になれば振り返って話しかけてくるのにそれも無く、ずっと背中を向けたまま。

私の一言に怒っているのは分かるし、謝ればいいのも分かる。これがただの友達なら直ぐに行動に移せるけど、相手は好きな人。
謝るだけなら出来るが、ただ謝るだけだとさっきの発言は本当の事だと言っているようで。それは違うとちゃんと説明したい。でもそうなると結果的に告白することになってしまう。
そして、ぐるぐると考えている内に謝る事すら出来なくて。更に一度謝るタイミングを逃すと次の機会はやってこない。


「ナベちゃん・・・もうダメだ」


一向に改善することない関係に泣きついてしまうのはやっぱりナベちゃんで。あの場に居たナベちゃんなら何かいいアドバイスをくれるかもしれないと縋りついてみたけれど、困ったように眉を下げたナベちゃんはやっぱり困ったような声音で言った。


「うーん・・・御幸は捻くれてるところがあるからね。こうなったらもう高宮が素直になるしかないと思うけど」


協力するから、言ってみなよ。そう続けたナベちゃんは暗に告白しろと言っていたが、素直に頷くことが出来ない。
そんなに簡単に告白出来たら相手の気持ちが知ることの出来る機械なんて望まないし、とっくに告白してる。それにもしかしたら御幸も・・・、なんてほんの少し思っていたあの時とは違って今は会話すらままならないんだから絶望的じゃないか。
拗らせてしまったこの想いは中々に厄介で、自分でも持て余してしまってどうしたらいいのか分からない。


「言わなきゃ何も変わらないよ」
「うん・・・」
「このまま何もせずに終わってもいいの?」


ナベちゃんの一言に二の句が告げずに押し黙る。こんな気まずい関係のまま終わらせたくなんてないけど、そうか。もし席替えとかあったらこのまま疎遠になってしまう可能性だってあるんだ。
今の状態を打破するのが告白しかないんだとしたら・・・言ってみようか。自分で蒔いた種なんだし、いつまでもナベちゃんに頼っていてもダメだよね。


「・・・分かった。言ってみる」


私の返答を聞いたナベちゃんはにっこりとした笑みを携えながら「俺も協力するよ」と心強い一言をくれた。それだけで少し肩の荷が軽くなったような気がする。心の準備をするべく今日帰ったら色々と作戦を練ろう。そう考えていたのに、ナベちゃんはそんなに甘くなかった。

思い立ったが吉日ということなのか、それとも時間が経つと逃げ腰になる私の性格を見越してのことなのか。ナベちゃんから連絡が来たのは、それからたったの2時間後。全ての授業が終わり、SHRで担任の長い話を聞いている時だった。


【授業後、視聴覚室に呼び出しておいたから。がんばれ】


メッセージを読み終えた途端、ドクリドクリと心臓が騒ぎ出す。全く心の準備なんて出来ていないのに、何て事をしてくれたんだと焦りながら指を動かして返信するけれど、既読はついてもそれに対しての返事が返ってくることは無くて、手の平にじわりと冷や汗が滲んだ。

この後、御幸に告白するの?ホントに・・・?いきなり何だって思われないかな。でも、ここで逃げ出したりしたらナベちゃんに迷惑が掛かっちゃうから、ぶつかるしかない。御幸の背中をジッと見据えながら決意を固めた。

相変わらず心音は高鳴ったままで、緊張からか呼吸まで浅くなっている。それが落ち着くのを待たずして号令がかかり、挨拶とともに皆が教室を出て行くのを目で追っていた。
もちろん御幸も早々に教室を出て行って、一呼吸の後ゆっくりと御幸が向かったであろう場所へ足を向ける。


「・・・葵?」


破裂しそうなくらい脈打っている心臓を服の上から押さえるようにしながらゆっくりと扉を開ければ、机に腰掛けている御幸の姿があって。久しぶりに彼の口から出た自分の名前に、涙が出そうになる。


「え、俺ナベ待ってたんだけど」
「あの・・・えっと、」
「あぁ、何。俺ジャマ?だったら行くわ」


でも、それも束の間。自嘲気味な笑みを浮かべた御幸の目は全然笑っていなくて、一瞬で温度が下がったようにも思えるくらい冷たい視線を向けられた。
徐に席を立って本当に出て行こうとする御幸は、もう私の方へ視線を向けずに一直線にドアへと向かっていて、横を通りすぎた瞬間に咄嗟に腕を掴んで引き留める。


「・・・何?」


さも鬱陶しいと言わんばかりの視線に心が折れかけたけど、それでも御幸の腕を掴む力は緩めなかった。
この視線を受けてもなお自分の気持ちを告げないといけない事が、怖い。出来る事なら今にも逃げ出してしまいたい。でも、言わなきゃ何も変わらない。

早く、早く。何か言わないと。
焦る気持ちとは裏腹に一向に言葉が出て来なくて、色々な感情が振り切ってしまったせいか涙がぼろりと頬を伝った。
驚いたような御幸の顔も涙で滲んでぼやけてしまっているが、御幸を掴んでいる手を離す訳にはいかず、流れ落ちた涙はポタリと床に落ちた。


「御幸、ごめんね」
「は?いや、何で泣いて・・・」
「だって、御幸が怒ってるから」
「いや、怒ってるっつーか・・・あーもう、泣くなって」


涙を拭ってくれる指はどこか優しくて。掛けられる声も、視線も。さっきまでの冷たさは消えていた。いつもの御幸だ。そう安心したら余計に涙が溢れ出してきて、頬を滑る御幸の手ももうきっと拭えてはいないだろう。
確かカバンの中のハンカチがあったはずだ。濡れたままの頬にその存在を思い出して、ずっと掴んでいた御幸の腕を離す。だけど、逆に掴まれて強い力で引き寄せられた。
頬に感じるシャツに涙を吸い取られたのと同時にじわりと感じる温もり。瞬きを繰り返しながら動けずにいると、回された腕によって身体が圧迫された。
つまり、御幸に抱きしめられているのだ。


「怒ってないから。泣くな」
「びっ、くりして・・・涙、止まった」
「はっは、そりゃ良かった」


触れているところから響いて聞こえる声がいつもと違って聞こえるのが抱きしめられているという事を知らしめているようで、急激に身体の熱が上がってくるような気がした。
どうすればいいのか分からず固まったままの私を余所に御幸の声が上から降って来る。


「葵はナベの事好きなのかと思ってた」
「え、」
「だからどう接したらいいか分からなかったんだよ」


ゆっくりと紡がれた言葉に、固まっていた身体が自然と動く。首を反らすようにして御幸の顔を仰ぎ見れば、どこか拗ねたような顔で明後日の方向を見ていた。


「俺にはしない相談もナベにはしてるし、挙句優しくないとか言われるし」
「違うっ、それは・・・」
「自惚れてた分、反動が大きかったなー」


御幸の口調が最早拗ねているというよりも揶揄いを含んでいるのに気付いて押し黙る。
もしかして、御幸は気付いているんだろうか。私が泣いてしまった事によって、用事があるのはナベちゃんじゃなくて私だった事。どうして今二人きりになっているのかも、私が御幸を好きなことも全て。
ここに来た時には感じられなかった余裕がいまの彼にはあって、私の口から決定的な一言を言わそうとしているような気がする。


「だって・・・しょうがないじゃん。相談って、御幸の事だし」
「へぇ・・・俺の、何?」
「好きな人の相談を本人にするわけないでしょ!分かってよ鈍感男」


素直に言うのは癪だったが、折角作り上げられたこの流れで言わない訳にもいかなくて。口から出たのはちっとも可愛くない言葉だった。
どうしてもっと可愛く言えないのかと言った瞬間後悔するけど、自分の性格なんて今更変えられない。臆病で、意地っ張りで、素直になれない。照れ隠しで言わなくていい事まで言ってしまう難儀なものなのだ。


「告白されてんのか貶されてんのか分かんねーな」
「不本意だけど告白だよ。何で分かんないかな」
「うわ、可愛くねぇ」


告白だというのに、ちっとも甘い雰囲気にならないのは私の所為だって分かってる。
御幸に避けられている時こそ大人しくしていたが、その前まではしょっちゅうこんな掛け合いをしていたし、御幸の毒づいた言葉にも慣れたはずだった。
でも、自分で思っていることを好きな人に指摘されると心が痛んで、一瞬で泣きそうになる。


「可愛くないのなんて自分で分かってる!でも、今更変えられないし・・・御幸が好きな気持ちだって、変えられっ・・・」


最後まで言い切れなかったのは、塞がれた唇のせい。
心構えも何も無いまま奪われたファーストキスは呆気にとられている内に離れていってしまい、湿ったような感覚が残されているだけ。


「いいよ、変わらなくて」
「今・・・、キス」
「俺は葵のそういうところが好きだから」


噛み合わない会話に、全く異なる私たちの表情。
私は呆然としながら今起こったことを理解するのに必死なのに対して、御幸は満足げに微笑んでいる。
今、キスしたよね。それで、私の事好きって言ったよね。ってことは、両思いって事でいいんだよね。
一つ一つ自分に言い聞かすように確かめていると、じわじわと実感が込みあがってきて、ずっと行き場の無かった手を御幸の背中へと回した。


「あっ、やべぇ」
「え?」
「部活、遅刻する!悪ぃ、また明日な」


でも、一瞬で離されてしまった身体に淋しさを覚える間もなく、申し訳無さそうに片手を上げてから慌しく駆けていく御幸の背中を呆然と見送る。やっぱり、私たちに甘い雰囲気というのはまだまだハードルは高いみたいだ。
でも、ずっと知りたかった御幸の気持ちを知ることが出来たし、しかも私と同じ想いだった。思い出すだけで緩む口元に力を入れながら、置いてあったカバンを肩に掛けて視聴覚室を後にする。

このまま、野球部を覗きにいこうかな。そしたら御幸はどんな反応をするだろう。
今日言わなければ無かったこれからの事を考えるのが・・・考えることが出来るのが嬉しくて。遂にニヤけてしまった口元を手で覆いながら、彼のいるグラウンドの方へ足を向けた。




モンフレミズキさんリクエストありがとうございました!
御幸お相手で、両片思いですれ違ってくっつく(要約)なリクエストでしたがどうでしたでしょうか!いや、何だか思ったようにならなくて迷走してしまったんですが少しでも気に入ってもらえたら嬉しいです。

一周年に引き続き、二周年でのリクエスト本当に嬉しいです!当サイトに1年以上通い続けてくださってありがとうございます土下座。ミズキちゃんから頂ける感想は本当に嬉しくて、褒めちぎってくれる感想が書くモチベーションを保ち続けてくれているんだと思います!本当にありがとうございます!好きです!!
これからも末永くよろしくお願いします!
write by 神無


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