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朝方のスズメもお呼びでない

 もう朝だろうか。
 どこからか差し込む光がまぶしくて目を覚ましたが、ぼんやりと冷めきらない頭は今すぐにでも夢の世界へと引き戻してしまいそうなほにどまどろんでいる。肌に触れる優しい温かさが心地よくて瞼もなかなか持ち上がってはくれない。夢見心地なまま、そういえば寝室へ行った記憶がないなと、曖昧な昨夜の記憶を呼び起こしてみる。昨夜は互いに多忙な日々を乗り越え、約二か月ぶりに恋人同士の時間を過ごしていたはず。
 身体はクタクタだった。耀さんは私以上にクタクタのはずだった。それでも久しぶりに愛しい人と触れ合ってしまえば求めずにはいられず、寝室に行く手間すらも惜しんでリビングで互いの熱を合わせたのだった。
 そこまではいい。しっかりと覚えている。しかしそのあとの記憶がない、ということは、まさか。


(あぁ、やっぱり・・・)


 思い当たった現実を確かめるためゆっくりと重たい瞼をこじ開ければ、視界に映るのは引き締まった健康的な肌色。当然ながら私自身も取り繕うものは何もなく、心地よい暖かさだと感じていたのは人肌だった様だ。
 私が寝落ちしてしまったはずなのになぜ耀さんの上で寝ていたのかとか、わざわざ毛布を持って来たのなら自分だけでも寝室で寝ればよかったのにとか疑問に思うことは多々ある。だけど美形の寝顔を前にしたら些細な疑問などどうでもよくなってしまい、食い入るように見つめてしまった。これはいつまでも見ていられる美しさだわ。
 暫く幸せな時間を堪能していたが、どれだけ見つめても耀さんが起きる気配はない。ならば先に起きて朝食でも準備するかと思ったが、しっかりとホールドされているようで抜け出すことすら容易ではないようだ。起こさないようにとゆっくり身をよじると素肌同士がすれてしまい、妙なみだりがましさが羞恥を誘う。
 熱くなる顔を冷ますように深呼吸をしながらどうしたものかと頭をひねっていたら、かみ殺すような笑い声と共に小刻みな振動が伝わってきた。


「・・・いつから起きてたんですか」
「さて、いつからでしょう」


 おはようさん、と何食わぬ顔で挨拶をしてくる耀さんの声はしっかりしていて、寝起き直後ではない事を物語っている。これは恥ずかしすぎる。身をよじる前から起きていたと言うことは、寝顔を眺めていたこともバレているということだ。


「ほいで? 続きは?」
「へ? 何のことですか」
「さっきまで俺の身体を撫でて誘ってたくせに。俺の彼女はエッチだこと」
「誘ってませんから!!!」


 分かっているくせに何を言い出すのかと抗議をしたところで耀さんの耳に届くことはない。それどころかそんなに寂しかったのかと煽ってくる耀さんは、私が翻弄されている間も腕を解く事はなかった。


「もうっ! お疲れだろうからしっかり休んでほしかったのに」
「ほーん。そいじゃ、二度寝でもしますかねえ」
「寝るならちゃんとベッドへ行ってくださいね」


 連日連夜の睡眠不足で疲弊しているところに、私を抱えたまま狭いソファーで寝たのだ。身体の疲れは癒えるどころか溜まっているだろう。まだ朝も早い時間だし、もともとのんびりとした朝を過ごそうと思っていたのだから二度寝には大賛成だ。ハイどうぞと無理やり体を離してベッドへ行くように急かしたのに、笑顔を崩さないまま毛布を抱いて立ち上がった耀さんは歩き出すことなくジッと私を見つめていた。


「な、なんですか……」
「朝から大胆だねえ」


 声に出さずに『ま・る・み・え』と唇が動いた気がして、すぐに自分がやってしまったことを理解した。何も考えずに起き上がってしまったが、先程まで素肌が触れ合っていたということは何も着ていないということで。一糸まとわぬ姿の自分を恥ずかしげもなく曝け出しているということだ。気が付いていなかった失態を叫びながら、慌てて目の前の布を掴み取る。勢いで耀さんを覆い隠していた毛布をはぎ取れば、一人だけパンツを履いているのだからズルいとしか言えない。いや、寝落ちした私が悪いのだけどさ。


「包まりたいなら一緒にベットきんさい」
「いやいや!全然眠くないので大丈夫です!」
「一緒に二度寝、するんでしょ?」


 いま耀さんが言っている二度寝の意味が、私の知っている一般的な二度寝と違うと確信が持てるのは、耀さんから寝る気配が感じられないからだろう。これは確実にのんびりした二度寝にならないやつだ。
 嬉しいし嫌なわけではないけれど、それではゆっくり休むことにならないから本末転倒だ。そうなってしまわないように首を振って抵抗しているというのに、私の意思というのは耀さんに弱いらしい。


「葵、おいで」


 熱を含んだ声で普段呼ばれない名前を呼ばれてしまえば、まるで催眠術にでもかかったように差し出された手をってしまうのだから。
 重ねた指先に先程までの程良い温かさを感じないということは、それだけ自分が熱くなっているということだろう。


「よくできました。いい子にはご褒美をあげないとねえ」


 その言葉と共に抱きかかえられベッドへと運ばれる。もはや抵抗する気はないけれど、お疲れのはずの耀さんが無理をしていないかが心配で声を掛ければ鼻で笑われてしまった。


「なーに、俺がそんなか弱い奴だとおもってたわけ?」
「い、いやいや。決してそういうわけでは……」
「ほーん。ご褒美よりお仕置きをお望みだと」
「滅相もない! ご褒美が嬉しいです!」


 私をからかっているだけなのはわかるけれど、耀さんのお仕置きって言葉に、過去のお仕置きと称したエッチがそれはそれは大変だったことを体が思い出してしまい、ぞくりと体が震えた。朝からあんなことになれば、今日は一日動けなくなる未来しか見えない。
 そんな私の反応がお気に召したのか、耀さんの口元に不敵な笑みが浮かんだ。


「ほいじゃ、期待に応えないとだねえ」
 

 その笑みがどちらを指しているのか分からないまま重ねられた唇は優しいのに驚くほど熱い。ねじ込まれた舌がくちゅくちゅっと音を立てて口内を暴れまわれば、まだ残る昨夜の余韻も相まってすぐに私をとろけさせる。キスだけで耀さんの欲が伝わってくるようで、その欲を受け止めたくて首に縋り付きながら必死に舌を絡ませた。自然と漏れ出る甘ったるい声と水音が何ともイヤらしい気分にさせる。
 こうなってしまえば、彼を止めることはおろか、自分を抑えることすら難しい。ならばとことん付き合ってしまおうじゃないか。


「耀さん、今日は一日ベッドで過ごしましょうか」
「おやおや。やる気満々だこと」
「ふふ、久しぶりの耀さんですから」
「可愛いことを言うもんだこと。なら手加減してあげないからね」
「望むところです」


 たまったりとした二度寝の時間はなくなってしまったけれど、代わりに昨夜のような熱く激しい妖艶の時間も、贅沢な休日といえよう。
 それが想定よりも激しくて、その日どころか翌日にまで響くことになるのを知るのは、後々になってからなのだから。




耀さん、いいですよね。意地悪な大人。ごちそうさまです。
完全なる自己満足で書いたものだし、なにより耀さん本編が始まる前に書いてたやつなので認識違いとかあるかもですが、ご了承下さいませ。
write by 朋



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