その日は朝から曇りだった。体が重い、もうすぐ雨が降るなと思っていたら、思ったとおり。せっかくの日曜日に雨が降るなんて酷く憂鬱だ。ベッドに体を沈ませると、MDコンポに手を伸ばす。なんだかイライラしていたので気を散らしたくなった。ステレオからアップテンポの曲が流れて、それに合わせてわざわざまくらに押し付けた口で鼻歌を歌う。 携帯が鳴った。 「…はい」 「苗字?」 「うん」 聞き取りづらい電話の音声。雨の音が受話器越しに聞こえた。電波の先の相手は今外にいるのだろうか、そんなことを考えながら上半身を持ち上げる。 「なぁ」 「なに」 「…今機嫌悪い?」 「わるい」 「はは…じゃあ、」 「いいよ、言って」 やっぱりいいや、とか、そういうことを言おうとしたんだろうってすぐにわかった。だから私がそう言い放つと彼はしばらく黙ったのだ。言いづらいことなのだろう、それは彼の名前がディスプレイにあがったときから気付いていたから大丈夫。…大丈夫だと言い聞かせて、 「何でふった?」 やっぱりそうだ。 「…すきじゃないから」 「でも、いい感じだったじゃんかよ」 「でも、すきじゃないから」 抱えていた枕に鼻を押し付ける。…上原は何もわかっていない。 私に告白をしてきた隣のクラスの男子は上原の紹介で知り合った人間だ。苗字のメルアド知りたいみたいなんだけど、教えてもいい?紹介はそのくらいの軽いものだったけど、その関係がすぐにわかった。その男子は私のことを気になっていて、上原はその仲人をしようとしていたのだ。だからあの男子から話を聞いて、こうして電話をしてきたんだろう。上原は何もわかっていない。 「でもさー、お試し期間で付き合うってのもいいんじゃないかなーとか」 「上原ってほんとわかってない」 「え?」 「…なんでもない」 「や、え、うそだろ、だって今わかってないって」 「今外にいるの?」 「え?あ、うん」 相変わらず雨の音はうるさく響く。目を閉じると、まるでこの部屋に雨が降っているみたいだ。窓の向こうから聞こえてくる雨音と受話器ごしのそれが交じり合って、それがどんどん胸を締め付ける。上原も今、雨に濡れているのだろうか。 「雨、すごいね」 「あぁ、うん、結構すげーよ。ななめってるもん」 「ねぇ上原」 「ん?」 「好きだよ」 それだけ言うと、繋がったままの受話器を耳から離した。このまま外へ飛び出してみようか。雫を浴びれば、この電話を切らないですむかもしれない、なんて。緊張も恐怖もごちゃごちゃした何もかもを、全部洗い流してくれるかもしれない、なんて。 (07.05.24) |