九月ももう半ばを過ぎたというのに何だろうこの暑さは!!

 …って、朝はそう思った、だから半そでを着てきたそれがまずかった。朝の暑さは何だ何で何だこの寒さ!夕方になるにつれ雲が現れ太陽を隠し、直射日光ない焼けない万歳!とか友達とはしゃいでたんだけど予想以上の冷たい風にほら、今だってぶるぶる、体が震える。雨でも降んじゃないの。

「…うわ」

 思わず声に出してしまった、一人だって言うのに。下駄箱で呆然と立ち尽くす私。変なこと考えるんじゃなかった。"雨でも降んじゃないの"だって?何言ってんの私。降っちゃったよ雨、降っちゃったよ。

 あーあ。

 ざーざーと降りまくる雨の中、傘もささず走って帰っていく生徒もそりゃいたけどほとんど男子で、何だかむなしい気持ちでいっぱい。しかも寒くて、半そでの腕を両手で押さえながら私はため息を吐く。

「うお、名前?」

 アニメならきっと肩がビクリと震えるシーンだろう。突然クラスメイトの声が背後からしたもんだから、思わず「わっ!」とか小さく言ってしまった、彼に聞こえたかはわからない。反射で振り返ると彼の髪の毛からぽたりぽたり雫。勇洙くんだ。肩にタオルをかけてエナメルをかけて、私を見てきょとんとしている。ていうか待って、何で校内から出てきたのにそんなに濡れてるんですか。手には傘。

「…どしたの?」
「いやそれは俺の台詞だぜ」
「いやいやいや私の台詞だから!濡れすぎでしょ!」
「ん?あーこれか。いや俺今プールの補習でさー」
「プール!?このクソ寒いのに!?」
「そう!俺ちょー頑張ったんだぜ!!褒めて!」
「す、すごいね」
「だろ!?もっと褒めて!」
「…すごいね!」
「ふふふふーん」

 私が褒め言葉を与えると彼は嬉しそうにニマニマと口元緩めた。そんな勇洙くん、手には傘。そこばかり気にしてしまう、勇洙くんには悪いけど、この勇洙くんですら傘を持っているのに私は持っていないという事実が大変悲しいのであった。くそう。仕方がないけど頑張って走るか、そう決意し鞄をぎゅっと握る。

「お?名前、傘持ってないんだぜ?」

 肩がびくりと跳ねた。バレた。このまま「うんそうだねじゃあね!」と爽やかに駆けていけたらよかったんだけどそうもいかない、誤魔化すように笑みを浮かべると、うーん、とわざとらしい―といってもおそらく勇洙くんは真面目なんだろうけど―唸り声を上げて何か考え込んでいる彼。

「…しょうがないんだぜ」
「へ?」
「俺はオトコだからな、お前にこれを貸してやろう!」

 偉そうに私の目の前に彼が突き出したのは、ビニールの傘。そして、「これも貸してやるんだぜ!」と上着まで脱ぎだした。彼が中に着ているシャツは半そでで、人のことは言えないけれど見ていてとても寒い。

「ちょ、いいよ勇洙くん、寒いじゃん!」
「だって名前、半そでで寒いんだぜ」
「勇洙くんも半そででしょ!」
「女は身体を冷やしちゃいけないんだぜ、知らないのか?」
「いえ知ってますけどもでも!それに、傘もいいよ、濡れちゃうじゃん」
「言っただろ、今プールで濡れてきたから、また濡れても大したことないぜ」
「いやそんなことな―…あ、ちょっと勇洙くん!!」

 意地でも彼に傘と上着を返そうという私の努力も空しく、勇洙くんは当然のように上着を私の肩にかけるとそのまま雨の中に飛び出した。思わず声を上げて私が追いかけようとしたとき、クルリとこちらに振り返って、

「それじゃあな!!」

 と笑顔を向けてくる。なんだかそれを見たら追いかける気力がなくなって、その場に立ち尽くしてしまった。え、どうすればいいの、ビニール傘差して男子の制服羽織って家まで帰ればいいの。お母さんになんて説明しようか。ど、どうしよう。
 グルグルとそんなことを考えているうちに、私の視界の中で彼はバシャバシャと水溜りを蹴って校門をくぐっていった。とりあえず帰ろう。傘を開いて上着に袖を通すと、控えめに水を含んだ土を蹴って歩き出す。勇洙くんの上着は温かかった。…明日、何て言って返そうかな。


(07.0922)


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