勢いに任せて扉を開けると驚いた顔をしてエドァルドが私の方へ駆け寄ってきた。私は少し酔っ払っていたけど、意識ははっきりしていた。だけどとても悲しくてしょうがなかった、何故悲しいのかわからなくて、それがまた悲しい。悪循環だ。どうしたの?そう聞いてくる眼鏡の奥の瞳はとても心配そうで、それだけで私は少し満たされる。だけど、それはすぐに欲へと変わった。構って欲しい。相手をして欲しい。悲しくてしょうがない。

「名前、大丈夫?どうしたの?」

 エドァルドの優しい目に力を吸い取られる気がした。玄関先だというのにペタリ、座り込んでしまったのはきっとそのせいだ。そしてどうしようもなく泣きたくなる。段々とぼやけていくエドァルドが、酷く焦っているのが見えた。
 悲しくて悲しくてしょうがない。だけど何で悲しいのかわからなくて、だから誰にも言えなくて。気がつけば無意識にエドァルドのところへ向かっていたのだ。

「名前?」

 どうしたんだ、と言うような優しい声で名前を呼ばれて、中腰になって私を見下ろす彼の服を掴んだ私はついに泣き出した。下を向いた私にはエドァルドが今どんな顔をしているかわからなかったが、しゃくりあげる私の頭に置かれた手は暖かかったから、きっとそんな顔をしているのだろう。
 エドァルドはしばらくポンポンと私の頭を撫でてくれていて、いつまでたっても泣き止まないことがわかると、しょうがないなぁ、そんな声が聞こえてきそうなため息をひとつ吐いた。そうして座り込んでいる私に合わせるように、その場にしゃがみこんでくれる。それが嬉しくて、でも涙は止まらなくて、彼の胸にしがみつくとそのままわんわん泣き続けた。床に尻をついたエドァルドは頭を撫でていた手を私の背中に回すと、優しく抱きとめてくれた。

「名前、酔っ払ってるでしょ」
「…よっぱらってない」
「うそ。お酒臭いよ」

 少し笑みを含んだその声は暖かい。そうか、私、酔っ払ってたんだ。だから悲しいのかな。何で悲しいのかな。わかんなくて、私の涙で濡れた服をぎゅっと掴むと頬を押し付ける。エドァルドはいつもそうだ、ただ受け止めてくれる。理由のない涙でも、理由のある涙でも、何も聞かないで頭を撫でてくれるのだ。優しいそれに私は甘えてしまう。

「落ち着いた?」
「おちついて、ない」
「…しょうがないなぁ」

 ポンポン、と二度ほど私の背中を撫でた意外に大きな手は私の後頭部に向かい、そのままもっと強く抱きしめてくれた。あったかい。たまには甘えて欲しい、そう思うときもあるけど、やっぱり私はエドァルドに甘えたいようだ。片耳をぴたりと彼の胸にひっつけて、心臓の音を聞く。酷く安心するその音を聞きながら、私は目を閉じた。

「ねぇ名前、ここ玄関だしさ、とりあえずリビングに移動し」
「………」
「あれ、え、……もしかして寝てる?」



(07.0805)


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