知っていた、もう私は傷だらけだった、だから敵わないことも叶わないことも知っていた、彼が私の方へ向かってくるのも全部ぜんぶゼンブ知っていたのに。もうろくに動けない私は地面についた剣を頼りにどうにか二本足とそれの三本で地面の上に立っている。きっと肩を軽く押されただけで倒れてしまうだろう。息をするのも辛かった。いっそ殺して欲しかった。

「もうどうにもならんことくらいわかるやろ」

 手を伸ばせば届きそうな距離に彼がいる。私にもしこの剣を振り上げられる力があったなら、彼に斬りかかっていただろうか。アントーニョの声は悲しそうで、悔しそうだった。いつだったか私に笑顔を向けていたはずのその顔が私の涙でぼやけて消える。何が間違っていたかなんてもうどうでもよかった。
 そっと私の髪に触れたアントーニョの手を力いっぱい振り払って、よろけた私は自分の剣にしがみつく。無様だ。どうすればいいのか、自分でもよくわからないのに、何故私は立っているんだろう?倒れてしまえばいいのに。舌を噛み切ってしまえばいいのに。流れる涙が鬱陶しくて首を振ると、大きな力で剣を握っていた手を引き剥がされる。自分と地の他に頼る場所のなくなった体はそのまま温かく苦しい場所へと飛び込んだ。背中に回されたアントーニョの腕が私の体を締め付けて、必死に胸を押しても叩いても離れない。

「離してっ…!!」
「なぁ、降伏して」
「嫌!!」
「頼む」
「いや…!!」
「大事にしたいんや」
「や…」
「何で名前を傷つけなあかんの?」

 悲しそうなアントーニョの声を聞きたくなくて、彼の胸の中で嫌々と首を振る。互いに着用した金属が擦れあって乾いた嫌な音がした。彼の胸に染みていく私の涙が全て血液だったらよかったのに。このまま意識を手放してしまえたらどんなに楽なことだろう。温かいはずの彼の腕の中は何故こんなに冷たいの?何故ひとつになれないの?

「ころして」
「名前、」
「殺して」
「………」
「殺してよ」
「…名前」
「ねぇ」

 消えてしまいたいほど自分が憎くて嫌いで惨めで滑稽で愛しい。ねぇ、どうすればいい?震えてるのはあなたなのか、私なのか、それすらもわからないまま私は声を上げて泣いた。



(07.0804)


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