「バッシュー!!」
「う、」

 仕事から帰ってきたバッシュは、家の前で笑顔で手を振ってくる名前を見て足を止めた。あからさまに顔が歪む。ああ、絶対にいると思った。だからわざわざ足取り遅く帰ってきたというのに。仕事先でも嫌な思いをしてきたところだ、これ以上は勘弁願いたいのである。

「あ、何その顔」
「き、貴様、何故ここに」
「ん?ふふふー、それはねーバッシュ、たんじ」
「あああああもう鬱陶しい!!去れ!どこかへ消えろ!我輩はお前なんぞに構っていられるほど暇ではないのだ!」

 ツカツカ、早足で扉へ向かうと名前を素通りして中に入る。だが鍵をかけようと思った矢先、当たり前のように扉が開いて先ほど突っぱねた女が入ってきたではないか。わざとらしく眉を寄せてみるが全く気にしないようで、ニコニコと笑顔を浮かべたまま、彼女がバッシュの代わりに鍵を閉めた。

「ふふふ、バッシュー」
「帰れ」
「えー!何で!」
「貴様、我輩の言葉を聞いていなかったのか!?お前なんぞに構っていられるほど暇ではないと言っ」
「構わなくていいからさー」
「遮るな!!そういう問題ではないのだ!!」
「いいからいいから」
「よくない!!」

 バッシュが必死に突っぱねたが、名前は強引にズカズカとリビングへ向かって行った。盛大なため息を吐いたバッシュは難しい顔のまま後を追うようにリビングへ向かう。見たくもない光景に頬がひくついた。

「…おい、何をしているのだ」
「え?何って、飾りつけ」
「いらんことをするな!!帰れ!」
「え、そう?じゃあケーキだけでも…」
「だからっ、〜〜〜っ!!」

 悪びれた様子もなく笑ったままの名前に言い返す言葉が出ないバッシュ。相手が隣国であるフランシスやフェリシアーノであれば銃をぶっ放していたに違いないだろう、彼らならやりかねないというものだ。その様子を想像して寒気を覚えるバッシュだったが、今はそれより目の前のこの女をどうにかするのが先決だ。早足で椅子に乗り壁に安っぽい色紙の飾りつけを施している彼女の前に向かうと、ひょいと腰を掴んで持ち上げた。

「うひゃあ!!何すんのバッシュ!」
「黙れこの馬鹿者が!!帰れと言っているだろう!」
「やーだよ、バッシュのたんじょ」
「黙れと言っているのだだーまーれー!」

 ぜぇはぁと息を切らせて叫ぶ。持ち上げた名前は肩に担いで、ずんずんと玄関へ向かった。少しの間黙っていた名前だったが、担がれているのいいことにわずかに赤い彼の耳に口を近づけて、そっと囁く。

「たんじょうびおめでとう」
「なっ…!!!!」

 ぴたり、止まる足。しばらく名前を担いだまま下を向いて何かを堪えていたバッシュだったが、くるり、方向を転換すると再びリビングへと向かった。名前は頬を緩めて、バッシュの背中に手を置きながら笑った。

「おめでとー!」
「…貴様、一番言われたくなかった言葉を…」
「恥ずかしいんでしょ?」
「黙れ」
「だって耳赤いもん」
「放り投げるぞ!」
「やーだー!」

 楽しそうに笑う名前にもう一度大きな大きなため息を。誰だって言われ慣れていないことを言われれば照れるものだ、しかもこんな状況で。ああ、自分が少しでも嬉しいなんて思わなければ今頃彼女を追い出して一人静かに仕事に取り組めていたものを。嬉しくて恥ずかしくてそんな自分が嫌で、頭の中をグルグルと様々な思いが駆け抜けたが、まぁ年に一度のこの日くらいはそんなことを忘れてもいいではないかと、能天気な彼女を見てこっそり笑った。



(07.0801)
H a p p y B i r t h d a y T o Y o u !!


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