※7月7日のおはなし

今日は何もない日だ。何もないけど、今日はお母さんの命日だ。
あの日からぽっかりと穴が空いた。今日はあれから何日たったかな。

今日は何もない日だ。何もないけど、今日は世界から、竜がいなくなった日でもある。
私と同じように、ナツも親がいなくなった日だ。何か起こりそうで、何も起こらない日だ。
今日のことを思い出せば悲しみでいっぱいになるのは、私もナツも一緒だ。

「ルーシィはお母さんのお墓参り?」
「うん」

昨日の夜、ひとりでいるハッピーに聞かれた。ナツはいない様だった。ナツもきっと一人になりたいのだろう。「そっか、オイラ、このお花今日つんできたんだ。一緒に供えてよ」そうハッピーに一輪の可愛い白いお花を貰った。ギルドから帰る帰り道、いつもの川沿いの道をぼんやりと歩いていたら後ろから突然、とこんと肩に触れられた。いつもみたいに大声で驚くことがなぜかできずに振り向くと、ナツがいた。
「俺も一緒に行っていいか?」
「ナツは何かすることはないの?」
「いいんだ」
緩く微笑むナツはいつもと全然雰囲気が違って、全く別の人のようだった。きっと自分もそうだ。
私たちはよく似ているのかもしれない。お互いの痛みは絶対に共有できないけれど、心が近くにあるのだろう。



両親のお墓参りは、出来るだけよく来ているけれど、今日はやっぱり特別だ。
私の中にぽっかりと穴が空いた日。キラキラした世界が、ボコボコの紙みたいになった日だ。
ナツと二人、電車を使って来たけれど、ナツはいつもより酔わなかった。
お墓をお掃除して、お供えをして、お祈りをする。ナツはずっと黙って、私が手を合わせるのに一泊遅れてから、手を合わせた。ナツは本当によく、私のお墓参りにつきあってくれる。勿論お墓参りだけじゃなくて、出会ってからいっつもほぼ、一緒にいるんだけれど。
(なんだかここまで一緒にいたら、お母さんに彼氏だと勘違いされちゃうかも。)
少しだけ寂しい心が埋まっていることに気づいた。

昼がすぎ、小腹がすいてきて、やっと「腹減った〜」っとナツらしく言うので、「そうね、どこかお店に入る?」「お金はいいのかよ」「今日は特別」懐は当然カラカラだけど、今日はコツコツと続けている貯金を出してきた。

「ほんとは家で食べる飯がいいけど」
「それってギルド?」
「いや、ルーシィの」
お店に入ってからそんなことを言うので、しょうがないから今日は夜作ってあげるわよ。なんて都合のいいことを言ってしまう。これじゃあまるで、本当に彼氏じゃない。
(いや、彼氏というより家族かな。うん、家族みたいなものだしね。)
そんな脳内会議は、何度したのかわからない。


今日は7月7日、全てが変わった日。
でも今は大丈夫。一緒に過ごしてくれる人がいるから。












「ルーシィもナツも狡い!二人で行くんだったら教えてくれればよかったのに。オイラも一緒に行ったのに」
「ごめんねハッピー。でもちゃんとお花お供えしたわ。ありがとう」
「ツーン。おさかな」
「しょうがないわね。今日の晩ご飯はハッピーの好きなものにしましょう」
「え、おれ肉がいい!」
「はいはい」
「ぜってー聞いてねえし!」
「作ってもらうんだから騒ぐな!」子供か!

今があるのは、あの日があったからなんて思うと
ちょっとだけ、幸せ





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いつまでも続いて欲しいような
曖昧な温かい関係
温い風の吹く7月の夜は
少しだけ長く感じた

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