小さな頃はね、ハッピーエンドで終わる幸せなお姫様に憧れていたの。いつか白馬の王子様と…まではいかなくても、きっといつか私を連れて行ってくれる。私をこのつまらない家から、怖いパパから、連れ出してくれるって。勿論パパのこと、今では凄く大切だけど、あの頃の私は本当に怯えててね。でもね、時が過ぎて大きくなっていくにつれてわかったの。"誰も助けには来てくれない"って。自分が立ち上がらなきゃ、動かなきゃ、駄目なんだって。

「自分は家出が精一杯だった。けどこうしてみんなに出会えて、とっても幸せ」












甘いモカ、可愛いケーキ。その前で真面目なお話。いつからこんな話になったかはよくわからないが、エルザと二人きりでの緩やかな午後の一時。たまにはいいでしょ?

「それで冒険小説が好きなんだな」
「そうなの!」

胸がワクワクしてときめくのはいつだって冒険だった。よくある可愛らしい色恋のおとぎ話が好きだったのに、いつしか冒険小説や伝記ばかり読むようになって。自分の本の趣味はまるで男の子のようだと仲のいい使用人に笑われたこともある。

「でも、エルザは私より案外乙女よね」

にこりと笑って、可愛らしいケーキを幸せそうにほうばるエルザを見つめると、少し赤面して「そ、そんなことない。私も冒険小説や伝記のほうが読むぞ…」なんて照れる。こういう時のエルザは本当に可愛らしい。

「それに、それならジュビアの方が相当乙女じゃないか」
「ふふ、たしかに。でもエルザが実は凄くベタな恋愛小説とかが好きなの、私いいと思うわ」
「そ、そうか…?」

なんて言ってエルザを困らせる。男よりも凛々しく勇敢に鎧を纏い戦う女戦士の彼女は憧れだ。とても素敵な女性だと思う。勿論、凄いながらなかなかぶっ飛んだところもあるが、そこらへんはないと逆にエルザらしくないということで目を瞑る。兎も角、エルザはルーシィにとって、今でこそ身近にいるが、尊敬し憧れる程の素敵な凄い女性なのだ。
実際、壮絶な厳しく悲しい過去を背負う。本当は甘いものが好きだとか可愛いものが好きだとか、女の子らしい一面を押し殺して、厳つい鎧を纏い誰よりも強く戦うエルザは本当に凄い。

「私、エルザにはもの凄く幸せになってもらいたいの」

頭を過ぎる青色の髪に十字の刻まれた刻印のある顔。おとぎ話のような王子様じゃなくても、彼を彼女が愛して、彼もおそらく彼女を愛していたのに、一緒になれないなんておかしいと思うの。

「私はこれくらいの幸せが、ちょうどいいよ」

私が言いたいことが伝わったのかそうやって笑うエルザに私はやっぱり納得がいかなくて、ぷすうと膨らむと、エルザに笑われる。「ルーシィにそんな風に思ってもらえるだけで私は相当幸せ者だよ」なんて女なのに格好良すぎて惚れちゃいそうになる顔で言って。さっきまで私がエルザを攻めてたのに、まるっきし逆転されちゃった。

「そんなルーシィは、誰よりもおとぎ話のお姫様が似合いそうだ」
「どういう意味よ〜?」
「そのままの意味だが」

ニヤリと笑ってエルザに見つめられる。言葉の真意がわからなくて困惑する。「もし例えば私がお姫様だとして、王子様は一体だれなのよ」そうぶしつけにいうと、エルザは破顔して「似合わないな」と感想を述べる。あぁ、もう大体想像しているであろうことがわかった。

「ナツだなんて言われたら私の夢はどうなるのよ!」
「存外、満更でもないのだろう?」

何も言い返せないまま、最後のクリームを口に押し込んだら胸焼けがした。













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必ず助けてくれると信じられる桜色の王子様は如何ですか?

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