ハラリヒラリ


白い雪が、薄暗い空から零れ落ちる。一面銀世界のマグノリアは、白いのに、温かみのある雪景色を作っていた。家々から出る灯火や暖炉の煙。その中をルーシィ・ハートフィリアは楽しそうに歩いていた。


「ルーシィ!」


ルーシィの聞き慣れた声が、後ろから聞こえる。振り返ると、桜色の頭をした、見知った顔が遠くに見える。


「ナツ!」


寒い冬なのに、いつもの格好のナツが駆け寄る。どうやらナツは、ギルドから走ってきたらしい。白い息をゼエハアと吐いて、不機嫌そうに顔を上げる。


「置いてくんじゃねーよ」
「置いてくって、私は自分の家に帰るだけなんだけど」
「俺も帰るんだよ」
「私の家なんだけど」
「そんなの当然だろ、何いってんだ?」
「あんたが何いってんのよ!あんたはあんたん家に帰ればいいじゃない」
「ルーシィいないじゃんか」
「当たり前でしょ」
「ルーシィいないとつまんねぇもん」
「あのねぇ…」


テンポのよい言葉の応酬をする二人は、並んでルーシィの家を目指す。拗ねた子供のように唇を尖らせるナツに、ルーシィは呆れて溜め息をつく。


「ハッピーは?」
「ウェンディとこだよ」
「シャルルね。最近ほんとにいい感じよね、あの二人…二匹?」
「……」
「それで暇だからって私のとこ来ないでよね、全く。」


エドラスから、無事にアースランドへ戻って来てから、ナツの相棒の青い猫のハッピーと、幼い少女ウェンディの相棒の白い猫のシャルルの関係がとても良い感じになった。
今までハッピーの完全なる片思いだったのに、シャルルの方も、どうやらハッピーに心を許したみたいで。
ルーシィはその二人(二匹?)の様子がとても愛らしくて、素敵だと思っているのだが、ナツはつまらないようだ。


(相棒を彼女に取られてつまらないって感じね)


だからってうちは託児所じゃないんだからと、ルーシィは内心ハッピーに小突き、子供のようなナツを見て、くすりと笑いたくなる。本当に子供っぽい。でもそんなナツが、ルーシィを妖精の尻尾へ導いて、ルーシィを何度も助けている。
白い雪の中、空を見上げると黄色い月が輝く。ナツとルーシィは歩く。ルーシィはナツとこうして過ごすのは嫌じゃない、寧ろなんでか落ち着いて、気分が良い。ナツとの男女の友情にしては度がすぎて、でもそれにしては曖昧な関係はいつまで続いてくれるのだろうか。


「たまには、他の人のとこ行く方が楽しいんじゃない?」
「はぁ?誰んとこだよ」
「う〜ん。リサーナとか?」
「なんでリサーナなんだよ。」
「仲良かったんでしょ。聞いたわよ〜」


なんだか不機嫌なナツに、ルーシィはからかうように、リサーナを推した。ルーシィはギルドで、昔リサーナとナツが良い感じであったと聞いたし、リサーナ本人からもナツのことが好きだと聞いたのだ。

ルーシィは、あの子供のようなナツに、そんな浮ついた話があるのを、初めは信じられなかったが、ナツが以前、ルーシィに対して誰かと重ねていたりしたことを思い出し、リサーナが帰ってきてナツがとてもとても喜んでいたことを、見て知って、ナツにも恋とか、そういうことがあるのかと、感心した。
それと同時に少し、今まで少しも、時としては短い間だが、こんなに近くにいたのに、ナツに女の子としては見てもらえてないことに胸が、なんだか痛くなったけれど。


「何時までもこのままなんてわけにはいかないんだから…」


か細く、小さな声で、ルーシィは呟く。
ルーシィとナツは、近すぎる。ズカズカと遠慮なしに、簡単にルーシィのパーソナルスペースに踏み込むナツを、今までは許してしまってばかりだったが、彼を好きだという子がいるのならば、そろそろ、おかしなくらい近すぎる距離をなんとかすべきだと思う。友達だからといったって、毎日年頃の女子の部屋に男子が入り浸るというのは、可笑しいだろう。ルーシィ自身、もし好きな人がナツのようにある一人の女友達とそうしていたならば、嫌だ。


「…どういう意味だよ。それ」


今度こそ不機嫌な顔つきになったナツが、ルーシィの大きな瞳を捉えた。じっと見つめられ、ルーシィは視線を逸らしたくなる。じっと見つめられるのは恥ずかしい。それだけじゃなくて、ナツに見つめられると、なんでか胸の奥が熱くなって、泣きたくなるのだ。



「…時間は過ぎるってことよ」
「どんだけ時間がたったって、変わらないだろ?」


「俺とルーシィは」と呟いて、ナツは手袋をした、冷たいルーシィの手を掴む。その一枚の布が、ルーシィは、まるでこの、どうしようもなく温かくて、でも窒息してしまいそうな苦しさがある、曖昧な関係を表してるようで


───ルーシィの瞳は潤んだ。


































.
もどかしい。
白はリサーナ、雪は停止
曖昧、されど心地よい関係に終止符を打てる程、長く温もりに枯渇していたルーシィには、勇気がない。

さりげなく「思えば思う程、」の続きだったり。

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