.
池田三郎次は、斎藤タカ丸を狡いと思った。突然やって来た元髪結いの編入生。自分よりも劣っている忍者としての実力などは、兎も角として、自分の尊敬してやまない久々知兵助と、自分よりも近しい位置にいる存在が増えたようで、反目したくなるのだ。
しかし、斎藤タカ丸という人間は、とても軽快かつ柔軟で、大人だ。彼と話していると、嫌でも自分が子供(ガキ)なことに気付かされる。だから狡い。どうしようもなく狡いのだ。
「三郎次?何ぼんやりしているんだ?」
尊敬してやまない、落ち着いていて澄んだ声が響く。あぁ、自分は久々知兵助先輩に心配をかけてしまった!と今の現状に気付いた三郎次は慌てる
「え、ああとすいません!今日の倉庫チェックは終わりましたよ!あ、あとは…」
「いいよいいよ三郎次。ありがとう。お仕事お疲れ様。三郎次は本当に仕事が早いな。」
にこりと笑って、頭を撫でられる。優しくて綺麗で、大きな手。こうやって誉められるのは、とても嬉しいけど嬉しくない。
「な、なでないでください…っ」
「あぁ、ごめんごめん。三郎次はこういうの嫌だったんだよな」
しゅん、と悲しそうな顔をしてしまう久々知兵助。(違う、そうじゃない。俺はそういう顔をしてほしいわけじゃないんだ)
「兵助くーん!こっちの仕事終わったよー!」
気まずい空気に、タイミングよくやって来る斎藤タカ丸。
「へぇ、タカ丸さんにしては早いですね」
「えーひどいなぁ。日々成長してるんですよぉ!」
「そうですね」
くすくすと笑う久々知兵助に斎藤タカ丸は「僕も誉めてくださいよ〜」と子供っぽく言う。
「えらいえらい」
「そうじゃなくて、撫でて下さいって」
そう言われると、久々知兵助は一瞬驚いた顔をして、自分より背の高い金髪の頭部に、そっと触れる。頬をほんのりと赤らめて、「よしよし」と言う姿。それをみて三郎次は、やっぱり狡いと唸る。
五年生である久々知兵助は、本来六年生の年齢にあたる15歳の四年生である斎藤タカ丸との距離感をどうするか悩んでいた。それを全てわかっているのか、斎藤タカ丸は気軽に、優しく久々知兵助との距離をおかしくも自然なものにしてしまい、今では久々知兵助にとって斎藤タカ丸の存在はかなり大きなものになってしまった。
「狡い」
間近でみてきた池田三郎次は灰色に曇った空を見上げた。こんなに空は曇っているのに、斎藤タカ丸の鮮やかな金髪は眩しいままだ。となりに靡く漆黒の黒髪も、それに反射するように眩しくて。
「狡い」
.
自分も斎藤タカ丸という人間性を魅力的だと思えることすら