.


※無駄に長い捏造
※五年で知り合う二人の馴れ初め



容姿端麗成績優秀。そんな自分とは程遠い言葉が似合う人物だと、竹谷八左ヱ門は噂と容姿から彼のことをそう判断していた。

久々知兵助といえば秀才い組の中でも成績が良いと評判で、実際自分も一年の時から成績順位の上位者に名を連ねる彼の名を見る度に(スゲー奴だなあ)だなんて思っていた。
自分の周りには、変装名人で悪戯癖のある癖に成績優秀で武術にも長ける所謂天才鉢屋三郎や、迷い癖はあるが努力家で学問では優秀で上位をキープしなんといっても三郎をコントロールする不破雷蔵などと、自分よりも凄い奴ばかりで結構劣等感なんかもあったりして、久々知兵助のことを認知はするが、よく知ろうだなんて思わなかった。

最もこの事(竹谷八左ヱ門の抱く劣等感)を周りの人々が聞いたら、八左ヱ門は確かに学問は悪い時もあるが実技に関しては中の上、いや上の上だったりするんじゃないか?だなんて言う人が殆どだろう。実際竹谷は鉢屋と体術に関しては劣るが力については勝っているといえるだろう。おまけに彼は下級生ばかりの生物委員会の委員長代理(委員長不在)まで勤めているだけあって、動物を従わせたらピカ一なわけで、誰も彼が劣っているとは思わないだろう。

そんな風に、友達ですらなかった久々知兵助に、八左ヱ門は突然惹かれるようになったりするのが面白い偶然、いや運命なのかもしれなかった。少なくとも、知り合う確率の低くましてや仲良くなることなど、周囲は想像も予期もしていなかった。






久々知兵助はい組の中でも特に孤立のしやすい人柄だった。元々優秀で自信の多い人物が集まりやすく和気あいあいとはいかないい組だが、その上口数も少なめで、同室のクラス委員の尾浜勘右衛門以外あまり気軽に口を聞かず、連まず一人行動を好む性質であったため当然のことだった。また本人も気に留めず、あまり人付き合いで悩むのは忍として馬鹿馬鹿しいと思っている節があったのだ。

(やってしまった)

森林の中、ポツリと雨が頬に流れた。本日は五年全体での実技の演習。配られた番号符と同じ数字の相手から符を奪い持ち帰るというシンプルかつ難しい演習だった。だが何故優秀なはずの彼が森の中動きもしないのかというと、足を怪我したのである。

(小鳥など助けなければよかった)

手の中でさえずる小さな命に溜め息をつく。つい助けてしまったのだ。忍に己の身を呈して慈悲をかけるなど、もってのほかだというのに。それでも自らの掌の中の温もりに安心している自分もいることに理解できなかった。

「やっと見つけた・・・!!」

ぼんやりと視界に映ったのはボサボサの酷い髪。第一印象は切れまくった蕎麦みたいな頭だなんて失礼極まりないが、そう思ってしまったのだから仕方がない。どこかで見た顔だとも思い、そうだ生物委員でいつも虫取り網持って虫の名前を必死に叫んでいる奴だと気づいた。

「持って行け」
「え?」

自らの番号符を差し出す。動けない時点で自分の負けだから、悔しいが、仕方がない。

「お!その鳥!!」
「え?」
「めずらしい・・・!!目の色が青いぞこいつ!お前がみつけたのか?!」

急に目をキラキラと輝かせて、ハイテンションになる蕎麦頭。確かに小鳥は、よく見ると確かに深い青色の瞳を持っている。言われないと気づかなかった。

「あれ?お前怪我してるのか?」
「・・・・・。ああ・・・」
「足か。折れたのか?」
「どうだろう。まぁ動かないしって痛あっ」

いきなり患部に触れてきて、真剣な顔の蕎麦頭。初対面なのにこの態度、おまけにいま授業中だというのにこいつは絶対に忘れている。

「あ、悪い悪い。応急処置するから脱いでくれ」
「え」
「かなり腫れちゃってるし、俺じゃたいしたことできないけど、急いで保健室行ったほうがいいよな?」
「日本語になってないぞ。」
「マジで?!ははは。確かい組の久々知兵助だっけか?」
「・・・ああ」
「俺はろ組の竹谷八左ヱ門。よろしくな」

それが初対面のこと。竹谷八左ヱ門は小鳥の怪我にも気づき慣れた手付きで簡単な手当てをすぐさました。見るからに不器用なのに案外器用で驚いた。それらだけでも充分印象深いのに、その上久々知兵助はおんぶを渋ったため人前でお姫様抱っこをされるという羞恥を味わい、竹谷八左ヱ門の存在はもしかしたら今まで出会った誰よりも強いものとなった。








その初対面以来、竹谷八左ヱ門は久々知兵助にとってあまり近付きたくない対象、また気にする相手になった。それなのに何の不運かことあるごとに道行く先々で竹谷八左ヱ門の姿が目に入り、鉢合わせしそうになったりと脈拍が早くなることばかりで調子が狂った。

たかが同級生の隣のクラスの変な奴一人にこんな風に調子が狂わされることに我慢ならず認めたくなかった。どうした久々知兵助、お前はそんなタイプの人間じゃないだろうと自分で叱咤し、必死に自分を平静に保とうと努力する。その甲斐あってか周りの人々には何もいわれず、多分見た目はきっといつものように振る舞えていた。

「あ!兵助〜!」
「は?」

だがある日、頑張って避けていた相手に姓じゃなくて名をよばれて、その努力もまた0に、いやマイナスになった。

「こないだの小鳥が飛べるようになったんだよ!だからいまから森に戻しに行こうと思ってさ!兵助もくるよな!」
「え」
「お前が助けた小鳥だ!お前のこの手で返さなきゃな!」

いきなり大きな手に手をつかまれ、心臓が跳ねる。展開についていけないまま、引っ張られそのまま生物委員の飼育小屋に連れて行かれた。







竹谷八左ヱ門は初対面以来久々知兵助の印象が変わった。確かに容姿端麗成績優秀というのは正しかったが、それだけじゃなく身を呈して小鳥を助けるくらい優しくて良い奴で、ツッコミは厳しいが、なんだか可愛らしくてほっとけない対象になっていた。そのあと何度か話しかけようとするが何故かうまくいかず、視線で追うようになり、鉢屋三郎には呆れられ、不破雷蔵には頑張ってと応援されるくらいになった。
(頑張る?なに頑張るんだ?)
元気よく応援に「おう!」と答えるが本人は全く無自覚なことに、八左ヱ門の周りの人は苦笑した。実は五年生達の間で、例の"お姫様抱っこ事件"は話題になり、竹谷と久々知がどうなるか皆が注目していた。

竹谷八左ヱ門は無意識に久々知兵助の姿を追い、わかったことが幾つかある。彼にあまり親しい友達がいないことと、一人でいることが多いこと、なんだか淋しそうに見えることが、わかった。その為余計に兵助のことが無意識に気になって、できれば親しい仲になりたいと思った。
だから介抱していたあの、きっかけをくれた小鳥が羽を広げた時。(絶対にこの小鳥は兵助と帰さなければ)と心に決めた。








「ほら」

パサリと羽を広げ、兵助の周りを嬉しそうに羽ばたく小鳥。その光景に「お前のことわかってるんじゃないか?」と笑いながら言う竹谷八左ヱ門に、久々知兵助は言いようのない温かみを感じ、やはり何か気恥ずかしかった。

「小鳥がそんなことわかるのか?」
「ああわかるさ!生き物は結構頭がいいんだぞ?」
「お前、ホントに好きだな。生き物。」

兵助も生き物は嫌いじゃない。害虫のようなものはあまり好きにはなれないが、この小鳥のような生き物はなんだか温かみがある。それと同じように、先程まで自分の手を握っていた竹谷八左ヱ門のその手も、温かかった。













ファンタジック・ファンファーレ
「はち。」
「え?」
「そう呼ばれてるの聞いたんだ。」














.
温もりに委ねられるのも悪くない



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -