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「つかれた」
「おつかれ」
他愛のない言葉を交わしお茶を注ぐ、食堂の端の席でしばしば行われることだ。疲労感を表情に出しながらもリラックスをしたような様相の富松作兵衛に、腕に真新しい包帯を巻いた浦風藤内がお茶を渡す。
「お前・・・また怪我したのか」
「たいしたことないって。作兵衛までうるさいな」
「数馬も怒ったか」
「数馬も作兵衛も心配性すぎる」
浦風藤内は予習馬鹿として知られる。自らのドジとあまり良いとは言い難い頭脳を何とかするため頑張っているのだが、たまに張り切りすぎて爆発させたり物を破壊したり、時に怪我をしてくるので、作兵衛が迷子以外に心配する一つだ。
「仕方ないだろ?」
「そうだね。作兵衛は迷子捜索大変なのに孫兵が逃がた虫も探すし、用具だって忙しいのに数馬の不運だって助けるし、もう心配性は作兵衛の十八番だもんね。」
苦笑いをするしかない作兵衛に藤内は溜め息を零す。
「だから作兵衛、僕の心配までしたら本当に疲労でどうにかなっちゃうよ?」
少し淋しげに言い作兵衛を見つめる藤内に、作兵衛はなんだか胸が熱くなった。
「藤内は優しいなぁ。」
作兵衛はくしゃりと笑って藤内の怪我した手をそっとつかんだ。「おかしな話だけど、藤内が怪我するのが一番心配になるんだ。」静かな声でつぶやく作兵衛に、藤内も胸が熱くなった。
「心配しても、どうしようもないだろっ」
「藤内は一番無茶しやすいからなあ」
「んなっ、作兵衛だって無茶ばっかじゃないか、沢山心配して走り回って」
「そうかもしれねぇなぁ。」
「だから俺の心配くらいはしなくて」
「いいや、する。したいんだ。」
いつの間にか赤面になっていた藤内は、余裕そうな作兵衛に少し苛ついて、でもなんでか嬉しくて、苦しくなった。
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だって、心配してくれるじゃねぇか