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「同室が留三郎で本当によかったよ。」
突然切り出した何の脈略のない伊作の言葉に心臓が跳ねる。今俺たちは卒業、いや、正確には消え出す時だ。忍びとしての卒業試験を一人一人こなしていく期間と、仕事場が決まった奴が消えていく時だ。
どこか張り詰めた空気が六年長屋を覆う中、俺たちはいつもとなんら変わらず、お茶の時間だった。
「お茶煎れるの相変わらずほんっとうまいし」
「ついでに茶菓子まで買ってきてくれるし」
「棚まで作ってくれちゃうし」
羅列していく言葉を呟く伊作はなんら平然としてるが、俺には泣きそうな顔をしているようにしか見えない。
「それだけか?」
不満気に問いかけると伊作は俺をじっと見つめる。
「顔だってイケメンで、女の子からの人気も高いし」
「そりゃお前もだよ」
「いいや、留さんのがカッコイいよ。本当にいい男だよ、君は。私が惚れるほどじゃないか。」
我慢が出来なくなってきて連ね続ける伊作の口に噛みつく。
「お前も相当いい男だぞ」
「すげえ優しいし」
「誰にだってきちんと治療するし」
「女にだって分け隔てなく会話できるし」
「人へのフォローも上手い」
「それに顔だってまれにみる美形だし」
「ほんとに、俺だって惚れてるんだ。」
手放したくない、離れたくない、できるならいつまでも一緒に。だが、そんなの無理だってことはわかっている。
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「殺されるなら、留三郎がいいな」